年の差カップルの純愛異世界ダークファンタジー小説 終末のヴァルキュリア 第三話 最初の敵

2018年4月18日

第三話 最初の敵

周りの風景が認識できた頃にはすでに、いままでと全く違う光景に包まれていた。
石でできた家。ところどころ壁がひび割れている。屋根は煉瓦でできているのだろうか。とにかく瓦じゃない。

床は硬い土でできており、尻餅をついたところ非常に痛い。周りには人だかりができて遠目にこちらをみている。彼らは色彩があまりない服を着ており、ところどころ破れていてボロボロだ。裕福そうなものは色とりどりの布を頭部から肩にかけ羽織っており、それを首に巻き付けたり、首の後ろで結んでいた。

しばらくそれらを眺めていると突然老婆が目を開き叫び出す。

「悪魔じゃー!!悪魔が出たぞ!!!」

人々がざわめきだす。老婆がよくわからない言葉を話しており、何を言っているのかわからない。

「悪魔じゃー!!悪魔じゃー!!!」
「殺せ!殺せ!」

何の言葉かわからない言葉で人々が騒ぎ出す。ただ僕は直感した――
――このままだと危険だ。

僕は一気に走り出す。途中男が行く道をふさごうとしたが、そのまま体当たりをしようとすると、おびえた様子で道を開ける。

「そういう適応力は評価できるぞ、たいしたものだ」

メリッサは隣で走りながらうんうんと、うなずいていた。

「メリ……ヴァルキュリア。これはいったいどういうことなんだ!?」
「どうやら彼らはお前のことを悪魔だと思っているらしい」

メリッサは楽しげに言う。

「悪魔!? 何で?」

横から色彩豊かな羽織をまとっいて鎧を着けており、頭に羽を付けた男が叫ぶ。

「止まれ!」

彼の手には機械仕掛けの弓がある。それを僕に向かって構える。

「あれはボウガン!?」
「それは和製英語だ。ただしくはクロスボウという。威力はすさまじいぞ、胸にあたると鎧を貫通して心臓に達する」

胸と言われたので僕の胸のあたりを探るがそこにあるのは、僕がいつも着ているTシャツがあっただけだ。当たれば即死もあり得る。

僕は人込みを避けながらできるだけ斜めにジグザグに走る。
激しく風を切る音がして矢が飛んでくる。すると、まわりにいた男の足に矢が刺さり筋肉を貫いていた。

「うわああ!!!」

その男は矢が刺さって、赤い血が流れている足を抱えながら悶絶している。僕は脇道を曲がり、人がいない方向へ逃げる。周りにメリッサ以外いないのを確認すると、息を切らしながらその場に腰を下ろす。

「一体何だっていうんだ!? 僕が悪魔だって?」
「その恰好」

メリッサが僕を指さす。僕が服を見直すとTシャツとジーパンを着ている。ふとメリッサを見ると美しい民族衣装に着替えており鎧は着ていない。

「ここの人々には、お前の恰好は異様だな。中世では人の行き来が少ない。見たことのない顔立ちをしている男は奇妙そのものであり、その衣装は、彼らにとってよくわからない裁縫で出来ている。田舎者が多そうなこの町では外人には排外的だ。悪魔と間違われても仕方ない」

メリッサはにこにこしながら言う。そうか中世ヨーロッパでは普通が違うのか。
僕はつい異世界を同じ文化にあるとそう錯覚していたが、全く別世界なんだ。最初に気を付けなければならなかった。

「なんでそのことを僕に教えてくれなかったんだ?」
「だって質問しなかっただろ」

平然と銀髪の少女は言う。

「危うく殺されかけたんだぞ!」
「エインヘリャルが人間が作った武器で殺されるはずがないだろ」
「エイ……何だって!?」

聞きなれない言葉がメリッサの口からもれる。
しまった、この世界に来る前にもっと説明を受けるべきだった。
殺し合いをしに来たんだ、慎重になるべきだ。

「まずそのエイ……何とかを説明してくれ」

メリッサは軽くため息をつき、おうような声で上品に衣装を落ち着かせながら、頬に手の平を当て、かわいらしげに首を傾けて語りだす。

「エインヘリャル。この世界において不老不死の肉体を持つ。お前の世界では肉体は死んでいるため、正確にはすでに死んでいる。通常、ヴァルハラにおいて魂は生まれ何の自覚もないまま、槍に貫かれ最期を迎える。
わたしのようなヴァリキュリアが魂に呼びかけるとヴァルハラで意識が目覚める。そしてヴァルキュリアが魂を引き上げるとその因果から解き放たれエインヘリャルとなる。不老不死といっても特別に肉体が優れるようになるわけではない。死んでいるその時の筋力、反射神経、視力、聴覚をもつ。ただこの世界では死なないだけ」

淡々とメリッサは語る。僕は不思議に感じた。

「よびかけるとヴァルハラで意識が目覚めるんだな、なら生きたままヴァルハラで意識が目覚めることはあるのか?」
「それはない。というよりもヴァルハラでは時間軸が違う。私から見れば魂が生まれいつの間にか槍に刺さっている。
お前がヴァルハラで目覚めた時点で、すでに死んだ運命をたどり終わっており、その記憶を持ったままヴァルハラで目覚める。
死なない人間なんていないからな。今のお前は人間ではない、エインヘリャルという不老不死の生命体だ。
ちなみにその肉体が動けるのはミズガルズとヴァルハラのみだ。お前の世界へは二度と戻れない。……寂しくなったか?」

心配そうに僕の表情をうかがう。

「いや、現実世界には未練がない。ただ生きたいだけだ」

はっきりと僕は答える。

「いい答えだ。他に質問はないのか?」
「戦う相手なんだけど、そいつはエインヘリャルなのか?」

彼女は真剣なまなざしになる。

「そうだ相手もエインヘリャルだ。むろんそいつにもヴァルキュリアが付いている。ヴァルキュリアは神だ。死ぬことはない」

じゃあ、どうやって相手を殺せばいいのか……? 僕がそれを尋ねるまえにメリッサは立ち上がる。

「どうやら、敵のエインヘリャルが来たようだ」

彼女はそう言うが、僕の視界の中にはそれが確認できない。メリッサは静かに言う。

「近づいてくる、相手もこちらに気付いているようだな」

周りを見渡しているとフードとマントを被った背の低い人間が、鎧を着た黒髪の少女とともに現れた。

「いました!あいつです!」

鎧を着た黒髪の少女は僕を指さす。するとフードを着た人がこちらに走り込んでくる。

「佑月(ゆづき)! 早く武器を!」

メリッサは叫ぶ。僕はどうしたらいいかわからないまま黙って立ちすくんでいる。

「佑月(ゆづき)!私に力を貸せと言え!早く!」

パニックになって身動き一つできない。すると、どんどん距離が詰められる。フードの人、いや敵が何やら振りかぶり、振り下ろすと、光の筋が曲がりくねって僕の方に向かってくる。

「ぐあっ!」

肩に激痛が走る。すると魂が抜ける感覚がし、頭に電流が流れる。痛みをこらえ悶絶していると、敵はまた振りかぶってくる。

メリッサはただ僕の肩に手を触れる。何故だろう心が落ち着いてくる。頭の中で考えがまとまってきた。とりあえず僕はこの場から逃げることにした。ずいぶん走った後、敵が周りにいないことを確認し、息を整えた。

「安心するな、まだ近くにいる」

メリッサの声は重い。

「どうすればいい!?」
「まず武器を作ることが先決だ。私に力を貸せと言え」

僕は小さくうなずいた。

「――ヴァルキュリア、僕に力を貸せ!」

世界がゆがむ。まわりは青く歪んでおり、僕とメリッサだけの世界になった。

「――イメージしろお前は何を思い描く――」

武器。武器。そうだ剣だ。長い剣だ! するとメリッサの手に僕がイメージした通りの剣が創られる。歪んだ世界が元に戻った。メリッサは僕に剣を渡す。そして叫ぶ、

「さあ行け! ラグナロクの始まりだ!」

続く
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