年の差カップルの純愛異世界ダークファンタジー小説 終末のヴァルキュリア 第四話 最初の敵②

2018年4月18日

第四話 最初の敵②

僕は敵に向かって剣を切りつけようとする。だが、困難な問題に突き当たる。
――重い……。

その重さのため、通常の状態でも剣を振りあげるだけで、両手の腕がブルブル震える。剣を落とさないようにするだけで精一杯。両手で固く握りしめるが、相当の握力を使い、敵に切りつけようとするが切っ先はフラフラ。敵は楽々とかわし反撃に転じる。

相手が持っている武器が光る鞭だと認識できた。

手元が筒状になっており、20センチほどの筒で片手で楽々と扱えるだろう。その先は光る鞭状になっており重さをみじんも感じさせない。光がしなり、僕は構え直す暇もないまま、ラグナロクの洗礼を受ける。

「があっ!」

僕の太ももに当たり、無様にも転んでしまう。攻撃を受けた部分が痛むのは当たり前だろう。だが、何だ? 頭がぼーっとして、くらくらする。

「一応説明しておくが」

声のする方向を見ると、メリッサが低い塀の上で体育座りをしており、いつの間にか鎧を着て武装している。メリッサは言う。

「お前がイメージして創造したものは、通称ロングソードといい、全長130センチ、質量は2キロ前後。幅広3センチから5センチあり、刀に比べて重心が手元より遠くなっており非常に重く感じ、扱うのに筋力を要する。通常騎士が馬上において扱うため刀身が長く、その重さで殴りつけるように切る。
そのため斬るには練度と筋力が必要で、長い刀身を使って刺す方が扱いやすい。歩兵としてロングソードを扱うには長年の熟練度と技術を要し、騎士は幼少の頃から剣術をたたき込まれる。まあ、素人に扱える代物ではない」

メリッサは面白そうに言っているが、こっちは死活問題。現代人の日本人で普通の男である僕の筋力では扱えない。ファンタジーものでよく出てくる剣だから、なんとなくイメージしたが現実はそういうものか。

「メリ……ヴァルキュリア! 他の武器を!」

僕は叫ぶ。

「あと三分待て。詳しい説明をする暇もないので、はしょるがそういう決まりだ。ちなみに、エインヘリャルはヴァルキュリアから特殊な能力をもらえる。それによって、ダメージを与えられると魂が打撃を受け、魂が砕ければ死ぬ。死ぬと言っても元から死んでいるのだが、不老不死の身体のエインヘリャルを倒す唯一の手段だ」

メリッサ、それを早く説明してくれ。僕の頭がクラクラするのはそのせいか。このままでは殺される。

とっさにあることを思いついて行動に移す。高校の頃やった体育の授業の砲丸投げのようにロングソードを振りかぶり、敵に向かって投げた。

ちょうど相手がとどめを刺そうと鞭を振りかぶっていたのが幸いした。重いロングソードにまともにぶつかり転んだ。

「ヴァルキュリア! 逃げるぞ!」

僕たちは二人並んでこの場からでたらめに逃げた。汗が噴き出た。全力疾走で逃げているため体力が削られる。

「メリッサ、心臓が動いてないのになんで息が切れるんだ!?」
「それは私にもよくわからないが、魂そのままの能力でここに転移される。たぶんお前の体力を再現しているのだろう」

息が乱れる。脇道のない長い道を一直線に行くと袋小路に当たる。周りは5メートルぐらいの塀で囲まれている。上ることなどできない。

「行き止まり!?」

運命に対して、悲鳴を上げた。

「武器を創れるようになったぞ。敵が追ってきている。たぶんこれが最後の選択になる、慎重に考えろ、どんな武器をイメージする?」

考えろと言ってもどうすれば。そうだ銃! いや、まて、僕は銃をイメージできても、その扱い方は知識でしか知らない。まともに敵に当たるかどうかわからない。この狭い道だ。接近戦になる。外せばそれが命取り。自動小銃でも避けられたら一巻の終わり。
そうだミサイル――

「一応言っておくが自分が構造をわからないものをイメージしても何も創れないぞ」

非常な宣告をメリッサは下す。ならどうすればいい。簡単な構造で筋力が弱い僕でも確実に当てられる武器――

そうだ! あれがあった!

「――メリッサ・ヴァルキュリア! 僕に力を貸せ!」

世界がゆがむ。僕とメリッサだけの世界になる。

「――イメージしろお前は何を思い描く――」

――――

敵が追ってきた。僕は相手に向かって後ろ向きにしゃがみ込んでいる。

「ここまでのようね。お馬鹿なエインヘリャルさん」

僕は相手に対して後ろ向きに座っているため、誰の声かよくわからないが、たぶん相手のヴァルキュリアだろう。ちょっと聞き覚えがある女の声だから、おそらく。

「貴女もとんだ外れを引いたようね、そっちのヴァルキュリアさん」
「そうだな、もう少し根性のあるやつかと思えばとんだへタレだ。お前はいい相手を見つけたな、黒いヴァルキュリア」

メリッサは言う。僕は身動き一つしない。

「ありがとう。銀色のヴァルキュリア。おしゃべりはここまでよ! さあ、あのエインヘリャルを殺しなさい!」

足音が近づいてくる。だんだんゆっくりと。僕は大きく息をする。壁をみている。壁には影が少しずつ大きくなっているため、近づいてくるのがよくわかる。

影が大きく腕を振りかぶったとき――
僕はしゃがんだまま振り返った。驚いた様子で立ちすくむ敵。僕は心穏やかに引き金を引く。

「ぐっ、あ……」

敵はかくりと膝を落とす。敵の横には何が起こったかわからない様子で、黒いヴァルキュリアが目を開いている。敵の胸には深々と矢が刺さっていた。鉄と木で出来た機械弓。そう、僕の手にあるのはクロスボウ――

「まだ終わりじゃないぞ佑月(ゆづき)」

メリッサは冷静に言葉を浴びせた。

僕は矢を固定し、弦を弾き、レバーを押し、ハンドルを回し、弦を引き上げる。

これは創った際、メリッサから説明を受けたのだが、クロスボウは紀元前からあり、最初は主に狩猟用に使われた。通常の弓を引くには、筋力と鍛錬が必要であり、命中には技術を要した。その弱点を克服するために台座に弓を取り付けて固定し、機械仕掛けで弦を引き上げ、簡単な方法で筋力を伴わず弓をセットでき、素人でも弓が扱えるようにした。それがクロスボウだ。

台座で固定して構えて直線的に矢が放たれるため命中精度は非常に高い。中世西ヨーロッパでは戦いの素人の市民兵でも、やすやすと騎士の甲冑を矢が貫いて殺傷されたため、人道的な理由ということで貴族を守るため、教会と貴族の要望でキリスト教徒に使用するのは禁止された。

僕はさっき人混みから逃げるとき、男がクロスボウを使って、ジグザグに走っていた僕に対して隣の男に命中させたのを思い出して命中精度を感覚的に理解した。だからとっさにイメージした。

僕がクロスボウを創ったとき、メリッサはその適応力はたいしたものだと感心してくれた。そして彼女は使い方を簡単に説明してくれた。

――ハンドルで十分に弦を引き上げ、中腰のまま安定した体勢で二発目を放つため引き金を引く。ビュンと音がし敵の肩に命中した。

そのさい敵の上半身が大きく揺さぶられ、フードがめくれて取られ、敵の顔があらわになる。
えっ……。

その顔は20代ぐらいの女であり赤茶色の髪の毛をしていた。その女がヒステリックに叫びだす。

「殺してやる! 殺してやる! あたしをこんな世界に連れてきたやつ、こんな世界のやつ、わたしを殺そうとするやつ! みんな殺してやる!!」

僕は戸惑った。そうだ僕はこれから人殺しをしようとしているんだ。黒いヴァルキュリアが言う、

「そうよ! 殺しなさい! 私たちが生きるにはそうするしかないのよ! 早く力を振り絞ってその男を殺しなさい!!」

このままだと僕が殺される。いやだ、死にたくない。僕は一心不乱になって矢をセットしハンドルを回す。

「死ね!」

女のエインヘリャルが光の鞭をしならせる。だが、ダメージが大きいのだろう。光はフラフラしていておぼつかない。

僕は冷静にそれをかわし――

静かにクロスボウの引き金に指を差し込み――

矢を放った……。

矢は深々と女のエインヘリャルの額に刺さった。当てにくい場所なのによく当たったと自分でも驚いた。女のエインヘリャルが力尽きて倒れる。心は静かだ。

黒いヴァルキュリアが金切り声を上げた。

「いやあああああ! 嫌よ私消えたくない! 消えたくない!」

女のエインヘリャルと黒いヴァルキュリアが光に包まれる。その光景をぼんやり見ていると二人は消え去り、このせまい空間で僕とメリッサの二人っきりになった。

僕が呆然としていると、メリッサは僕を優しく抱きしめる。

「佑月よくやった。お前は正しいことをしたんだ。何も悪くない。大丈夫私がついている」

メリッサはささやく。自然と涙がこぼれてきた。僕たちはしばらくそのままでいて、最初の敵を倒したことを深く理解した。

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