年の差カップル純愛異世界ダークファンタジー小説 終末のヴァルキュリア 第十一話 紅い月のもとで
第十一話 紅い月のもとで
「メリッサ・ヴァルキュリア、僕に力を貸せ――」
メリッサの目が碧から金色に変わり世界が青く歪む。
「――イメージしろ、お前は何を思い描く? ――」
僕はMP7A1をイメージした。そして彼女からそれを手渡される。MP7A1はPDW、日本語に直すと個人防衛兵器である。
小 型化、軽量化された銃で威力はアサルトライフル並みだ。宿の部屋にいる狭い空間にいる今の状態で、その性能を十分に発揮できる。
僕たちは敵のエインヘリャルを待ち構えた。足音がしない。メリッサが言う、
「どうやらつけられていたらしい。そうでないとヴァルキュリアでも居場所が特定できないのにこの宿に私たちがいることを知っていることが説明できない。まっすぐ近づいてくるぞ」
僕は生唾を飲む。銃をドア方向に向ける。物音一つしない。よく見るとドアがゆっくりと開き始める。
銃から光りがほとばしり、部屋中けたたましい音が鳴り響き、雪崩を打って弾が発射された。僕は弾節約のためセミオートでドアに向かって発射した。何も変化がない。他の客がわーきゃー叫ぶ声が聞こえるだけだ。
僕は様子を見ようとドアの方向に向かおうとする。するとメリッサが、
「私が行く」
僕が止めようとする前にメリッサがドアの方向へ近づく。ドアを開けようとドアのノブのわっかに手をかけたとき――
突然メリッサが倒れ込む。見れば腹から赤い血がドクドクと流れている。あの老婆だ。老婆がメリッサに向かって刃を振りかざしたとき、僕は老婆に向かって銃口をむける。
老婆は危険を察知したのか部屋内を素早く動き回る。照準が合わせられない。僕はセミオートで銃を撃つ。
銃弾が発射されると見るや、老婆は素早く動き出し、背が低いため銃弾が当たることはなかった。あんなババアがいるのか!
僕へと距離が一気に詰められる。メリッサが叫ぶ、
「佑月!逃げろ!」
僕は老婆との距離を取ろうとする。
「逃げろといっているだろ!」
メリッサは僕の体をつかみ、強引に窓の外に投げた。
「うわああ――!」
僕がいる部屋は2階にあったようで、まともに固い地面にたたきつけられる。
「メリッサ!どういうつもりだ!?」
返事は返ってこない。その代わりに、
「ひゃひゃひゃは! 坊や、早く上がってきな。早くしないとこの美しいお嬢ちゃんが切り刻まれることになるかね。ひっひっひ!」
なんだと! メリッサを早く救わないと。
彼女は敵のエインヘリャルに対して無抵抗になるしかないと言っていた。彼女が傷つけられる。想像しただけで怒り狂いそうだ。
だが、僕は足を止める。まてよ、メリッサは逃げろと言った。彼女は賢い。彼女は僕があそこだと勝てないと踏んでいるのではないか。
冷静になれ。老婆は戦闘慣れをしている。わざわざ僕を追ってこないのは、何か理由があるからではないのか。
でも彼女を傷つけさせるなんて。くそっ! 何か手はないのか?
「十数えるよ、い~ち」
何か、何か手は?
「さ~ん、しい」
何も思い浮かばない。僕は自分の無力さにがくぜんとする。彼女を犠牲にするのか?
「しち、はち」
だが、彼女は逃げろと言った。それはこうなることも予想していただろう。彼女を信頼しているなら、無謀に敵に向かうよりも、ここはいったん策を練り直す必要があるんじゃないか。時は瞬く間に過ぎ、そうせぜざるをえなかった僕は、非情の決断をする。
――メリッサを犠牲にする――
「十、残念だったねえお嬢ちゃん。あの坊やはお前のことが嫌いらしい。それじゃあ、心ゆくまで切り刻むとするかねえ。ひっひっひっひっひっ!」
僕はメリッサのことが好きだ。できるなら今すぐ飛んで彼女を守りたい。でも、僕はメリッサのことを信頼している。彼女が逃げろというなら、それを信じて逃げなければならない。
心が張り裂けて、ズタズタになる。あの美しいメリッサが!
くそっ! くそっ! くそっ! くそっおおお――!
僕はその場から逃げ出した。あたりは漆黒の闇に包まれている。相手が見えなければ、赤外線スコープのない僕は銃弾を当てることができない。ふと酒場の窓から灯りがともされている。
ここだ――
僕はその近くの脇道に身を伏せる。リアサイトでしっかり相手を見逃さないよう注意する。
酒場まで大体30mぐらいといったところか? それより近くに来なければ僕は当てる自信がない。
老婆がやってきた。手は真っ赤な血に染まり、体中返り血で赤く染まって光の刃が赤く鈍くひかりおぞましい光景だった。
僕は呼吸を整える。一歩、一歩こちらへと近づいてくる。
距離は大体25m。リアサイトとフロントサイトが老婆と合わさったとき
僕は老婆の胸に銃口を向けて引き金を絞る――
――空には紅い月が輝き僕らの戦いを見下ろしていた――
続く
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