純愛異世界ダークファンタジー小説 終末のヴァルキュリア 第十四話 紅い月のもとで④ 

2018年4月25日

 

第十四話 紅い月のもとで④

 老婆が部屋の中の獲物を見る。そこには銀髪の少女がいた。

「なっ!?  エインヘリャルはどこに行った」

 メリッサが笑う。

「ここだよ」

 僕は空き家の屋根から降り老婆の後ろを取る。その瞬間、老婆の後頭部を武器で殴りつけた。

 「があああ――!」

 僕は左手に軍用シャベルを持っていた。シャベルは第一次世界大戦のとき塹壕を掘るように兵士が携帯していたが、狭い空間の塹壕での白兵戦に活躍し、狭い場所でも振り回しやすく、訓練の必要性があまりなく、使い勝手のいい武器として猛威を振るっていた。

 第二次世界大戦のときのスターリングラード攻防戦で、ソ連の赤軍は執拗にシャベルを応用した近接戦で、ドイツ軍を大きく混乱させた。共産圏の特殊部隊ではシャベル格闘術を習得させている。

 最近の軍用シャベルは組み立て式もあり、長さを調節できるようになっている。シャベルの剣先はするどく研がれており肉に食い込む。

 重さもちょうどいいバランスで1.4kg。利き腕じゃない左手の片手一本でも十分振り回せる。
 僕は言う、

「婆さん。あんたの自慢のヴァルキュリアの目は視認できなければ意味がない。加えて一発頭部に打撃を加えれば、自慢の脚力も脳しんとうで役に立たない」

 僕は老婆の頭部のこめかみに向けて、シャベルを振り下ろす。シャベルの先の重さが剣先をぶれさせず、最短距離の軌道で老婆の頭部を襲う。

「ぐああ――!」

老婆はもがく。頭蓋骨が砕けたのだろう。手に感触があった。面白いように当たる。

「ひいいいいいい!」

 戦闘意欲を失った老婆は光のショートソードを捨てて、逃げ出した。

「待て!」

 僕は叫ぶ。老婆はふらふらの足取りで必死に逃げる。僕は後を追った。老婆に向かった先は路地裏で狭い小屋で天井はない。

そこには髪の赤い少女が目を伏せており、その目から血の涙を流していた。、スカートの先に足はない。

 老婆は懇願する。

「ヴァルキュリア! 助けておくれ! このままだと殺される!」

 赤い髪の少女は老婆の頭をそっとなでた。

 僕は無言で間合いを詰め、シャベルを老婆の頭に振り下ろす。よくもメリッサをあんな姿にしてくれたな。あの美しい少女を! 何度も何度もシャベルを殴りつけた。

 ヴァルキュリアはエインヘリャルにたいして無抵抗だ。ロープで縛るなりして、動けなくすればいいものをよくも!

 お前を絶対に許さん! 地獄に落ちろ! 感情のままシャベルを振り下ろした。手に伝わる柔らかい感触。脳内まで届いているだろう。

「もうやめて、死んでいるわ」

 赤い髪のヴァルキュリアが話した。僕はふと我に返る。

「君も恨みがあるだろう。目と足を奪われて」

 僕は言う。すると赤い少女は静かな声で、

「勘違いしているわ。私が自分から目と足を差し出したのよ。老いた体では戦闘においてかなりハンデになるから」
「――何? すると君は勝つためにこの老婆に自分の体を差し出したのか? 何故そこまで……」

 ヴァルキュリアにも痛覚がある。目と足を失う痛みはこらえきれないものだっただろう。

「それは貴方のヴァルキュリアに聞いてみるといいわ。きっと私と気持ちが一緒だから」

 メリッサに? どういうことだ。赤いヴァルキュリアと老婆が光に包まれる。僕は尋ねた。

「最後に聞きたい、名前は?」
「このおばあさんの名前は……」
「そんなババアどうでもいい。それより君の名前だ」

 赤い少女は不思議そうにする。

「どうして私の名前を聞くの? でもいいわ、教えてあげる。私の名前はクレア・ヴァルキュリア」
「そうかありがとう。僕がヴァルハラに行ったとき、記憶している名前が少ないと寂しいと思って」

 赤い少女がくすりと笑う。

「変な人。でもありがとう。私の名前記憶してくれるのね。私は貴方がヴァルハラに来ないことを願っているわ」

 そう言うと、赤いヴァルキュリアと老婆は消え去った。すっと気持ちが落ちついてくる。すると右手から激痛が走った。

「いたた、あたたった!」

 あまりの痛みに僕は地面へとへたり込む。

「佑月(ゆづき)!」

 メリッサが僕に駆け込んで近寄ってくる。

「戦闘中は興奮しているから痛みをあまり感じない。でも感情が落ち着いてくると、通常の痛みを感じてくる。落ち着け。大丈夫だから」

 メリッサが僕を抱きかかえながら、右手の痛みを和らげるために優しく右腕を撫でてくれる。

 少し痛みが引いてくる。不思議な少女だ。彼女に触れられると。何故だか心が鎮まる。

「これでやっと二人目だな。次はもうちょっと上手くやれ。私の身が持たないぞ」

 メリッサは少し笑みを浮かべて、優しく僕をさとす。二人とも血まみれになりながら、紅い月のもと、月明かりに照らされてゆっくりとゆっくりと足をそろえて宿へ帰って行った。

続く
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前→ 第十三話 紅い月のもとで③
第一話→現実世界
まとめ→ノベル

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