純愛異世界ダークファンタジー小説 終末のヴァルキュリア 第十七話 昔の思い出を更新しました。

2018年5月4日

第十七話 昔の思い出

宿屋で眠っていると、ふと昔のことが夢に出てきた。幼い頃の夢、大人になるよりずいぶん昔。異世界に行くなんておとぎ話だと信じていた頃。

僕は小学校でクラスメートになぐられて泣きながら家に帰った。二、三回なぐられただけだけど、理由もなくなぐられてその理不尽さに、自分が可哀想で泣いていた。

家に上がると母親が僕の異変に気づき、そのあざはどうしたのかと聞いてくる。僕はなぐられたと答えた。どうして、と母が聞くと僕は泣きじゃくりながらわからないと言う。

そこに昼間から酒を飲んでいた父親が現れて僕の顔をぶった。

「痛いよ! お父さん」

なぐられる理由がわからない。何て僕は可哀想なんだと涙をこぼす。それに憤慨する父は、

「いいか、よく聞け。なぐられるのに理由なんかいらないんだ。例えば俺が今むしゃくしゃしているからなぐった。ただそれだけだ。それを泣いても誰も助けてくれないんだ、よく覚えておけ」

ひどい父親だと当時は思った。仕事もろくにせず飲んでばかりいて、僕に優しくしてくれた時なんて一度もない。他人の家庭の話を聞いていつもうらやむばかりであった。僕はわずかな抵抗として父をにらんだ。

「そうだ、俺をにらめ、俺を憎め。当然だ、俺はクズだからな。世の中には三種類の人間しかいない。良い奴と、ただのクズ。それに付け加えて良い奴を助けようとするクズ。良い奴になろうとしても無駄だ。所詮クズはクズ。どう逆立ちしようと良い奴になれはしない。
ならせめて良い奴を守れるだけの力をつけろ、それ以外のクズの使い道はない。俺の子のお前もクズだ。クズからはクズしか生まれない。真っ当な生き方なんて出来やしない。なら、人を守れるだけの男になれ。お前の生きている価値はそれだけだ」

それは父自身に言っている言葉だったのか、僕に不器用に何かを伝えようとしてくれたのか今になってはよくわからない。

父はヤクザまがいの仕事をしてきて危ない橋を何度も渡ったらしい。母と出会った時に足を洗ったみたいだが、社会復帰しようとしてもろくな仕事にありつけやしない。

貧しい家庭に生まれた僕は一家の期待の星だった。でも僕はそれを裏切った。クズの子はクズ。そうかもしれない。僕も真っ当な生き方、死に方ができなかった。

それでも父はなんとか家庭を崩壊させないようにと、下げたくない頭を下げ仕事をしてはクビにされてはなんとか仕事にありつきを繰り返して家計を支えてくれた。僕を守ってくれただけ僕よりもましな人間なのかもしれない。

僕は普通というものに憧れた。でもそれは幻想だったのかもしれない。どこに普通などこの世の中にあるものか。そう悟った時、不器用ながらも生きていた父の背中を思い出し言葉を反芻する。

『世の中には三種類の人間しかいない。良い奴と、クズ。それに良い奴を助けようとするクズ。クズならせめて良い奴を守れるだけの力をつけろ』

今更になって心に突き刺さる。メリッサを守れるだけの力を僕は持っているだろうか。所詮僕は落伍者だ。でも、誰かを守りたいと思うなら強くあらねば。僕は強くなりたい。

僕は目を覚ます。ベッドでは静かに寝息を立てる銀髪の姫君。眩しいばかりだ。朝の陽光が窓から差し込み白銀に輝いていた。

このような娘には幸せになってもらいたい。僕は彼女を幸せにする資格があるのだろうか。少し躊躇(ちゅうちょ)する。彼女は重そうなまつげを上にあげて、碧色の瞳をこちらに向けた。

「おはよう、メリッサ」
「早いな、私はまだ眠い」

そういうとメリッサは布団を体に巻き僕と反対側に体を向けた。小さい女の子の体の線を描くベッドが大きく感じた。

「もう一眠りするのかい?」
「もうすぐ起きるよ、目を覚ましているだけだ」

しばらく、ベッドの上でもがいていたメリッサは急に上半身を起こし小さなあくびをする。

「おはよう、佑月。髪の毛が飛んでいるぞ。あとで直せ」
「しょうがないだろ、日本人の髪の質は固いんだ。君みたいに絹の糸のようなしなやかさはない」
「触りたいか? 触っても良いぞ。その代り一発なぐらせろ。何やらにやついたその顔に腹が立つ」

レディーに対して失礼な顔つきであったらしい。自分の顔の筋肉をほぐしナイトの心持ちで姫に接する。この娘とキスしたんだったな。信じられないが、僕のことを好いてくれているみたいだ。なるべくりっぱな男であらねば釣り合わない。

「さて下の階に食事をしに行くか。佑月準備しろ」

メリッサは革製のバッグからくしを出して髪の毛をとく。あの食事か中世の食事は僕の口に合わないんだな。僕がちょっと不満げな顔していたのか、メリッサはこっちに瞳を向けて、

「この世界の食事まずいよな。私も口に合わない。何か考えておく」

僕はその言葉に期待を膨らませた。メリッサがもし毎日料理してくれるとなると僕は死んでもいい。いや、もう死んだのだが、むしろ一回死んだ価値があるというものだ。

「その言葉に僕は期待しても良いんだろ?」
「乙女に二言はない」

そう言って柔らかにメリッサは笑った。僕は拳を握りしめてナイトらしく小さく喜ぶ。そうやって緩やかに僕たちは朝を迎えた。

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