終末のヴァルキュリア 第三十七話 ザメハの笑みを更新しました。
第三十七話 ザメハの笑み
暗い闇。闇が僕を覆う。
体が黒い海に沈んでゆく。
体が動かそうとしても動けない。
落ちていく、落ちていく。
無数の顔が僕をあざ笑っている。
ある顔は絶叫している。
真っ暗な電柱から伸びる電線。
黄色く薄暗い雲。
叫び声が聞こえる。
そうかこれが地獄か……。
僕は死んだんだ。
何故? わからない。
誰か助けてくれ。
メリッサ……。
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ふと目が覚める。僕から見えたのは赤毛の男が僕を笑っている顔があったことだ。
「おはよう、おっさん。エインなんとかが死なないのは本当なんだな。俺アンタを殺したの。意味わかる?」
なんだこの男は、エインなんとかというのは、エインヘリャルのことか。すると殺されたのはヴァルキュリアの武器ではなかったのか。とりあえず完全に死んだわけではなかったんだな。
喉元を触ってみる。血でべっとりぬれていた。頸動脈を切られたのか。いきなりのことでわからなかったが、こいつヴァルキュリアをつれてきてないのに何故僕がエインヘリャルだとわかったんだ。
「おっさんがムキムキのおっさん倒してくれたのはありがたかった。俺が動くのに邪魔だったから。これから隠れて殺さずにすむ、サンクスおっさん」
「お前は誰だエインヘリャルじゃないのか? 何故ヴァルキュリアをつれてきていない」
僕は尋ねた。
「俺はザメハ、趣味は殺人。人殺しして捕まって殺されたらヴァルキュリアの姉ちゃんに生き返らせてもらったわけ。」
「能力くれると言ったからなにくれるかとおもったら、ヴァルキュリアに感知されないという能力をもらっただけ。ひでー話だろ」
「それじゃあエインなんとかと戦えないじゃないか。むかついたからヴァルキュリアの姉ちゃん殺したわけ」
「そしたらそいつ生き返りやがって気味悪いのなんの。バラバラにしてコンクリートに埋めた。そしたらつきまとわれなくて、俺安心」
コイツ狂ってやがる。
「なあおっさん。俺と遊ぼうや。俺いじめっ子。おっさんいじめられっこ、オーケイ?」
僕は右手に握っていたMP7A1の引き金を引きバースト射撃をおこなう。
放たれる弾丸、しかし銃弾は肉体をとらえることはなかった。ザメハは優れた身体能力で距離を取り影に隠れる。
辺りはすっかり夜。真っ暗闇で影に入られるとどこにいるのかわからない。
相手の動向を探らなければ。
「ちなみに僕はいじめられたことはないぞ。なぜならずる休みの天才だったからだ。いじめのターゲットにされそうになったとき僕はずる休みをした」
「そしてその夜、学校に忍び込んでいじめっ子は置き勉していたので教科書ノート全部に死ねと落書きしておいた、一週間後ずる休みを終えて学校に行ったらそいつは転校していた」
暗闇のどこかで拍手が聞こえる。
「学校という意味がわからないけどおっさん面白い。もっと聞かせて。ここ言葉通じないから、会話久しぶり。もっと面白い話聞かせて」
「ああ、いっぱい聞かせてやるさ」
僕は音がした闇の方向へセミオートで射撃をおこなう。
少し動く影が見えた、その影が近くの木箱の裏に隠れた。後36発しか残弾がない、その間に仕留めなければ……。
「中学生の頃部活動に入らないかと無理矢理柔道部に入れられた。そしたら上級生に初心者いじめでひたすら投げられた。僕は腹が立ったから、柔道部の中にあったエロ本を道場の隅に置いた」
「翌日顧問の教師に見つかって上級生はこっぴどくおこられたよ。ちなみに僕はそれを見届けたら部活をすぐにやめた」
拍手の音がする。奴はその間にも移動していた。クソ……早い! ドン、虚しく銃声が響いた。
僕はセミオートで撃っていた。相手がこっちに近づいたとき、弾幕を張る。ドドドドドドと、小気味よくなる銃声。しかし音が響くだけ。弾倉(マガジン)が軽くなっていく。
後29発。そのとき、ザメハはものすごいスピードで僕の懐に入る。襲いかかる斬撃!
ヒュンと音が鳴るが僕には早すぎて軌道が見えない! あまりにも早いため条件反射で顔そむけるが、首もとを深く切られた。飛び散る血しぶき、僕の呼吸が荒くなる。奴を見ようとするとそこにはいない。
「ここだよ、おっさん」
気がつくと後ろに回り込まれ首元にショートソードを当てられていた。
「はい終了、おっさんの負け」
首もとをかっきられ血が飛び散る。鮮血の赤、視界が血に染まる。僕の力は抜け、そのまま倒れた。
「佑月……佑月――」
メリッサの声が聞こえる。助けに来てくれたのか?
「佑月――佑月――」
言葉が遠くなっていくメリッサ僕はここだぞ! メリッサ! ――いや違うこれは現実じゃない、僕はまた殺されたんだ。
襲うのは闇、その中でメリッサの姿を思い浮かべながら、長い漆黒のしじまに包まれた。
続く
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