終末のヴァルキュリア 第八十五話 襲撃②

2020年12月27日

 漆黒の蜃気楼、人々の生命を絡めとるように渦巻く暗澹(あんたん)たる世界で空を死の匂いで埋め尽くす。暗く沈む死の太陽の黒の球体。靄(もや)がかかった暗黒の体に赤い線がひかれて血で描いた様で、また、傷口を広げるように歪んだ口と目が現れる。そして一言、赤き少女が、
「はじけろ」

 そう言うと黒き熱物体たちが、風船が弾けるように飛び散り、液状となり黒い影が血を熱で切り裂くように僕に向かって襲ってくる。

 僕はメリッサをかばって抱きかかえてその場から逃げようとした。あっという間に黒い影が煉瓦造りの家々や地面を焼き尽くす。それらが、まるで熱でチーズが溶けるように黒い液体へと変わっていく。混沌の闇の世界! 建造物すら叫びをあげるように死んでいく。

 くっ、また厄介な能力を! 生命を食らおうと黒い影が僕たちに迫ってくる。すぐさまSG552を構える僕、だが目の前には二人の少女はいなかった。

「どこへ行った──」
「ここだよ、おっさん」

 振り返ると二人の少女が目の前に現れていた。一人はセミロングの赤い髪を右側の頭にポニーの尻尾のように縛っており、ゴシックロリータ風の黒いドレスを着ている。

 もう一人は青い髪をショートに後ろ髪をそろえており柔らかい髪を左の頭に縛って、これまたゴシックロリータ風の漆黒のドレスを着ている。

 死に誘う嫋(たお)やかな天使。二人は相対して着飾っており、おそろいの衣装に身を包み、二人の精神の同一性を強調している。

「あんたあの日向直子(ひゅうがなおこ)を倒したんだろ、どうやってやったか知らないけど。まあまあ、出来る奴としてこっちは準備してきたんだからさ、楽しませてよね」

「あら、まあ、リリィ。自己紹介もなしにいきなり攻撃するなんてはしたないです、これから死んでいただくのに地獄で恨み言を述べる相手の名前がわからないではないですか」


 赤い少女が舌打ちし指を鳴らすと、液状の黒い呼び手を球体へと引っ込める。屋根から青い髪の女の子がふわりと家の一階の屋根をクッション台にして飛び降りてくる。まるでスカートが空気の反発力を受けていないかのように、めくれることもなく衝撃になびくのみ。そして僕の目の前に現れ、スカートの端をつまみぺこりと頭を下げる。

「わたくし、ララァと申します。教会団から貴方を始末するように承って参りました。どうぞよろしくお願いいたします」

 ララァと名乗った青き少女は、口元に指先を持っていき、手のひらをこちらに向けて投げキッスのように愛情を振りまく。対して赤い少女は屋根の上から不動の腕組みをしてこちらを見下ろす。

「あたしはリリィだ。どうせ死ぬんだから自己紹介は必要ないと思うけどね」
 一度首を傾けて、白い指先をポニーテールに持っていき、リリィが赤い髪をたくし上げ胸を張る。

「教会団からの刺客? どういうことだ」
「佑月アンタ、ホント、何も知らずに日向直子を倒したんだな。日向はあたしたち教会団と対立してたんだ。そりゃあ、もうガチの戦争状態。殺戮(さつりく)の女皇帝の名のとおり、あたしらの同胞の教会団の使徒や兵を皆殺しにしていたんだ」

 リリィは腰に右手を当てて面倒くさそうに眉を上げる。ララァはこちらに顔を僕の顔に近づけていき、微笑む。

「彼女は危険人物でした。あの方はたった一人で教会団に刃向かって、結局何がしたかったのかわかりませんが、とにかくこちらの被害は甚大(じんだい)でした。

 何度も刺客を送ったのですが、みんなさっぱり消息が無くて困っていたんです。

 それが一人のエインヘリャルに倒されたというのを伺(うかが)いました。驚きましたよ、あの方が死ぬなんて。

 わかりますか? 佑月さん、貴方は教会団にとって見逃せない存在になっているのです」

 ララァが右頬に手を当てさも困ったようにこちらを見つめている。

「日向さんが教会団と対立していたなら、僕を狙う必要が無いじゃないか。もう彼女はこの世にはいない、なら僕とは関係ないだろ!」
「それが大ありなんだよ」
 風でリリィの髪が顔へと差し掛かったので、髪をたくし上げる。

「良いかよく聞け。教会団はこの大陸を支配している。それがたった日向一人のために組織がガタガタになるまで壊されたんだ。それがどれだけのあたしらの屈辱だったかわかるか。

 本当はさ、教会団の手であの女を始末したかったさ、が、それがもう死んじまってどうしようもなくなった。でっさ、あたしら教会団のメンツはどうなる? 今じゃ教会団も落ちたものだと、そりゃあもう人々から嘲(あざけ)りを受けているのさ、ムカつくことに。

 だから、日向を倒したアンタを倒せば、教会の威信が回復するって言うのが上の計算。まあ、そこら辺は政治さ、あたしたち現場の人間には関係ない。

 でも、やれと言われればやらなきゃいけないのが宮仕えの悲しいところでね、まあ、そういうことで、アンタはすっぱりあたしたちに殺されてくれよ」

「嫌だと言ったら?」

「そっちの方があたしは嬉しい。殺戮の女皇帝を倒したんだ。さぞ手応えあって楽しそうだな。行くよ!」

 咄嗟(とっさ)に僕は不意を突いてSG552をフルオートで二人に撃ち込む。けたたましく銃弾が彼女らになだれ込み、彼女らの生命を絶つ。

 華奢(きゃしゃ)な体が舞い、紅い血が噴き出す、まるで花びらが突風で舞い散るように、二人は銃になすすべもなく倒れていく。

 地面が赤く血に染まる、大地に残るは綺麗に着飾られた人形、そこに魂はない。
 これで終わりか……あっけない。

 ――どこ見てるんだ、こっちだよ――

 突如、背中を熱く激しい痛みが襲う。肉が焦げた独特の匂いがして、嗚咽(おえつ)しそうに堪(こら)えて目を遣(や)ると黒い液体が僕の背部にこびりついた。

「ぐああぁっ――――――!!」

 地を這いずり転げ回る僕。背中が燃える! 痛みをこらえ地に這いつくばり、振り返ると無傷の少女二人が目の前に立ち、こちらを笑っている。

 そんな、確かに僕は殺した! それなのに何故!?

「あら、ひどい方ですね。ちゃんと礼儀を教えて差し上げないといけないのかしら」
「当たり前さ、男ってのは全部野蛮人だ、嫌だねララァ。女の子の気持ちは女の子しかわからないから。 ああ、男ってのは気持ち悪い。汚いし気持ち悪いし、汗をかくし匂うし、最低。やっぱり女の子が一番だね」

「そうね、リリィ」
 二人は熱っぽく見つめ合いねっとりとキスをし出す。お互いの胸に手を当て、肌をこすりつけ合う。僕は奇妙な愛情の形を見て、茫然(ぼうぜん)と眺めていた。
 
 一体何が起きている。確かに僕は殺したのを見た、それが……! そうか、まさか……、ララァという奴の能力は!

「ララァ! お前、時間をさかのぼって過去を書き換えたな!」
 僕が叫ぶと、二人はキスをやめ、お互いの唇から唾液が垂れている。

「流石ご明察。わたくしの能力は過去をさかのぼって新しい事実に書き直す。時間屈折能力です」

 なんだと……そんな相手にどうやって戦えと云うんだ!?

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