小説、終末のヴァルキュリア 第九十一話 徒花③を更新しました。

2021年2月8日

 灼熱の街に咲く赤い花。それは黒い闇の世界にたたずみ、 泣きながら笑う一輪の花。花びらが舞い、狂気の世界にさっとまき散らされるように声が響き渡る、無くした夢に痛みを感じながら。

「全部、全部壊れろ!」

 リリィの声が反響する。ミランディアの人々には死を呼び掛ける天使の歌声に聞こえるだろう。終末の絶望。この世の終わり。人々は恐怖におびえていた。

 僕は黒い球体に見つからないように、狙撃できるポイントを探したが、近距離はやはり危険すぎる。身を隠して、リリィの居場所を確認しながら、僕がいるべき場所を見つけようとする。
 
 屋根裏部屋に窓のある民家を見つけた、玄関の扉の鍵は開いているため中に入る。誰もいない。住人は逃げたのだろう、急いで階段を見つけ、屋根裏部屋へと急ぐ。そこは狭く、埃とカビの匂いがする物置部屋であった。蜘蛛の巣を払いながら、窓を開ける。

 窓の外、遠くにリリィの足下が見えた。窓への段差が低いため、手すりに銃身(バレル)をおいて銃床(ストック)を肩にあて、なんとか銃を安定させる。狙いを定め、引き金を振り絞る。

「キャァ!?」

 リリィは足下の屋根を破壊されバランスが取れず、屋根から転げ落ちていく。
 その刹那(せつな)黒い球体がこちらに向き血の目が赤く光る。

 こんな狭い屋根裏部屋で襲われると、逃げ場がない。急いで屋根裏部屋を出て、民家の外に出た。

 リリィを早く見つけないと、予想される落下地点に駆け寄った。いた――。

 脚を痛めたのか片足を引きずって、肩に手を当ててゆっくり移動する。

 気づかれないように背後をとる僕。狙撃しようとした瞬間、黒い球体が僕の視界を遮(さえぎ)ったがかまわず引き金を引いた。
「きゃっ──」

 僅(わず)かな戸惑いの叫び声、どうなったかわからない。黒のインクが僕を邪魔し、視界が塞(ふさ)がっている。本人が命令せずとも勝手に行動するのか、やっかいな。

 黒い液体が僕に対し襲ってくるため、いったん引き返し、別の道からリリィの足取りをたどる。

 リリィを見つけた。しかし僕は眉を顰(ひそ)めるしかなかった、メリッサとナオコと老人おんな子どもが集まっている場所に奴はいたからだ。

「それ以上近づくな!」

 甲高い声で叫ぶリリィ。黒い球体がメリッサたちの上空を闇で埋めている。

「落ち着け、そいつらは関係ないだろ」
「関係あるさ、おっさん。コイツはアンタのヴァルキュリアだ。溶かしてやったら面白いんじゃないのか、アンタにとって」

 メリッサは押し黙っている。ナオコもいるし、周りの人々がいる。事情がつかめない以上、ヘタな口出しは無用と思ったのだろう。
 僕が交渉するしかない……!

「君の狙いは僕のはずだ、その人たちは見逃せ」
「もちろんアンタも殺すよ。でも、その前にもっと苦しませてやるんだ。ララァを失った悲しみをアンタに味合わせてやるんだ」

 リリィはうつむいて、さっと瞳を濡らした。

「ララァはあたしに可哀想だねって言ってくれたんだ。あたしが戦いに敗れて男たちのなぶり者にされた時に、傷痕(きずあと)をなめてくれたんだ。こんな哀しい世界だけどそれでも美しいって教えてくれたんだ。あたしの光だった。すべてだった。それをお前が……!」
「これは戦争だ」

「そうさ、だからみんな殺すんだ。戦争だ、みんな不幸になればいい」
「ララァがそれを望むとでも言うのか?」
 卑怯者の質問、それを僕は押し通す。

「アンタがそれを言う!? ララァを消したアンタが! アンタにララァの何がわかるって言うのさ、全く意味がわからないよ!」
 透き通った雫(しずく)が舞う。太陽の光で煌(きら)めき、黒い光に照らされる。

「君がやっていることは君をなぶった男たちと同じことだ。暴力で人をおとしめ、弱い物イジメをして、快楽を得る。それが楽しいのなら、君も君を傷つけた男と全く同じだ。ララァが君を救った意味をよく考えるんだ」

 リリィの体が硬直して、震えている。彼女の言われたくない言葉を投げかけた。最低な男さ、僕は、傷心の女の子にかけていい言葉じゃない。それでも守るべきものが僕にはある。彼女はその言葉に敏感に反応した。

「うるさい! うるさい! うるさい! アンタがララァを語るな、この外道が!」
「そうだよ、僕は外道だよ。でもね、それでも人なんだ。君はどうなんだい? 周りを見てごらん」

 リリィが周囲を見渡すと人々がじっとこちらを見ていた。救いを求める目、哀れみで見つめている目、恐怖で怯(おび)えている目。人々にとって、自分がどう映っているか、それを感じて、リリィは深く胸をかきむしられたのだろう。

「見るな……、そんな目であたしを見るな……! 見るなあぁ――――!!」

 おぼつかない足取りで僕のとなりを駆け抜けていく、リリィ。
 僕は背後を撃ち抜こうと構える。すると、リリィのヴァルキュリアが視界をさえぎった。
「リリィ! 逃げて!」

 ちっ、僅かに舌打ちし、それを冷静に撃ち抜く僕。ヴァルキュリアが胸を撃たれ倒れる。
 
 これは戦争なんだ…………

「なんとか助かったよ」
 メリッサが表情を緩めこちらに語りかけてくる。

「追わないのか佑月?」
「追っても今の状態じゃあ周りに被害が出るだけだ、メリッサ、僕の頼み事を聞いてくれ」

「ああ、もちろんだ」
「僕の身につけているフード付きのマントをかぶって、リリィを山に誘導して欲しい。それから武器の交換。あとこれ」

 僕がある物を見せ、彼女が掌(てのひら)を上に向けたので、手の中に放り投げる。メリッサはまじまじと見つめている。
「これはペンダントだな。どういうことだ? 私へのプレゼントか?」
「リリィへのプレゼントさ。いいかいよく聞くんだ……」

 彼女は僕の計画をすべて飲み込んでくれた、その上で「それでいいんだな──?」と静かに口を開く、メリッサの疑問は当然だった。彼女の言葉の裏の意は「成功したとしても、お前つらいぞ──?」、だ。それで良いんだ、僕はメリッサとナオコを守りこの戦争に勝てるなら鬼にだって悪魔にだってなれる。

 準備は整った。リリィとの戦いを終わらせる。彼女はあまりにも幼く純粋すぎた。それが多くの人々を傷つける。ここからは大人の仕事だ。
 

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