小説、終末のヴァルキュリア 第九十八話 勇者ナオコ②

2021年5月1日

 穏やかな時間が僕には流れていた、森の中鳥たちの囀(さえず)りに歌われて、子ウサギに似た小動物に対し銃で仕留めた。一応、メリッサは家出したとはいえ、武器だけは渡して出ていった、つまり帰る気があるのだろう。なら、僕の誠意次第かな。

 とはいえ、このまま食に不自由のままでは困る、特に僕は調理などほとんどできない、ちゃんと狩ったこの鳥や子ウサギを捌(さば)けるのだろうか。

 日は暮れ始め、ナオコもお腹空かせているだろうしここら辺で切り上げあの子と別れたとこにやってくると、ナオコがいない。……どこに行ったんだ? まさかあの子勝手に行動したんじゃないだろうな、まずい、しっかりしているとはいえまだ幼児だ、実年齢は知らないが、身体能力が欠けている。

 もしエインヘリャルに狙われたら大変なことになる。僕はとりあえず辺りを捜したのであった。

「ナオコーどこにいるんだいー? いるなら返事してくれー?」

 30分ほど声を上げながら探していると、僕に声をかけた者がいた。──メリッサだ。

「お前、どこにいたんだ!」
「こっちこそメリッサはどこへ行ったんだよ、ナオコがいなくなって今大変なんだよ」

「ナオコがいない? まさか一人ぼっちにしたわけじゃないだろうな」
「いや、いても狩りには邪魔だし、ほら、夕食分の素材は用意できた……」

「馬鹿! そんな場合じゃない、この町に新たなエインヘリャルが潜んでいるぞ!」
「なんだって? 居場所は?」

「大体見当がついてるが、私一人ではな、だからお前を呼びに来たと云うのに、ナオコがいないなんて……」
「君から察知できないかい?」
「あの子の気配は微弱で、とぎれとぎれでしか感じられない、いまはわからない」

「とりあえず、敵のエインヘリャルを仕留めることを優先しないか? 脅威を取り除いたほうが、まずは、優先順位が高いとそう判断するけど」
「ああ、同感だ、ついてこい!」
 僕はメリッサに連れられて急いで、その新たにやってきたエインヘリャルを排除することにした。頼むナオコ無事でいてくれ……!

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 ナオコが気が付くと、暗い石作りの部屋に閉じ込められていたようだ。暗がりの中、支えるものが欲しくてそっと壁に手を当て、所在を探る。どこだろ、ここは。ナオコは心細くなった、なぜこうなったかを理解するには少し時間がかかったが硬く閉ざされた扉を発見して、閉じ込められたことを悟った。

 ──そうだ、あの黒髪の男の人に何か飲まされてそれで……、そしてあの人はエインヘリャル……! 危険が迫っている事を解ったため精一杯ドアをたたいた。

「誰か! 誰か!」

 叫んでも誰も来ない、そっと扉に耳を当てるとうめき声や叫び声がこの扉の向こうでまん延していることが聞き取れた。いったいどうなっているんだろう。ナオコはひしひしと恐怖を感じ始めた。

 扉を破ろうと体当たりしてもびくともしない、叫んでも誰も来ない、ナオコはついに疲れてまた眠ってしまったらしい。子どもだもんなしかたないさ。

 突然金髪の女性にたたき起こされた、長い髪をすっとかき上げ、その表情はナオコを見ながら歪み笑っていた。

「ヴァルキュリア……なの?」
「そうね、エインヘリャルのおちびさん、私はセシリー、貴女の名前は?」
「私は……ナオコ」

「変わった名前ね、いいわ、ナオコ、こっちに来なさい、お腹空いているでしょ?」

 そういえば空腹であることに気づいたナオコは、どれくらい寝ていたか考えたようだ。しかし答えは出てこなかった、時計らしきものは存在しないし窓がないので、今、夜か朝かわからない。

 ナオコは素直にセシリーについていった、扉を開け廊下に足を延ばした時だ、女子供老人問わず叫び声とうめき声で廊下は狂想曲が反響していた。恐怖が体中を走り、ナオコは思わずセシリーから逃げようとする。

「誰が逃げていいって言ったの?」

 だがヴァルキュリアは総じて個人の身体能力が高くすぐさまナオコは捕まった。

「大人しくこっちにいらっしゃい、貴女も怖い目にあいたくないでしょう?」

 その言葉はどすが効いていた。恐怖で震えあがり、為すがまま、ナオコは手を引っ張られて無理やり廊下から階段を上がらされ部屋に通された。

「やあ、元気かいおちびさん」

 通された部屋は石作りでありながら、蝋燭(ろうそく)で明々と灯され、いささかナオコの気も安らいだ。立ち止まってたち込める香りをかぐと美味しそうなスープの匂いだ。肉料理も置いてある。

「さあ、貴女の席はここよ、いらっしゃい」

 セシリーはテーブルの椅子を引き出し、ナオコに着席を進めた。幼い子供だすっかり安心してしまってその行為に何の疑問もなく座ってしまった。

「少し話をしようと思ってね、さあお食べ」

 前の席に座っている男は優しそうに語りかける。

「君の名前は?」
「ナオコ」

「そうか、珍しい名前だね、僕の世界じゃあ聞いたことのない発音だよ、僕はキャラディスという、よろしくね」
「よろしく」

 お腹が空いていたナオコは食べ物に口をつけ始めた、ママの料理には及ばないがなかなかおいしかったとナオコは語った。

「君は独りなのかい、ヴァルキュリアとかどうしたんだい?」
「知らない、でもパパとママがいる」

「パパとママ、貴女の、そう、親はエインヘリャルなのね」
「そうだよ、とってもつよおいんだよ」

「そうか、それは困ったなあ、僕みたいに何とか生き延びられたエインヘリャルじゃあ到底敵いそうにないな、どうしようかセシリー?」
「一度この子を使って同盟を結ぶよう、うったえてみるのはどう?」
「それも一つの手だね」
「同盟?」

 ナオコは二人の会話に口をはさんだ、言葉の意味が理解できなかったのだろう、まだ子どもだ。

「そう、私たちと一緒に戦わないかってこと、ええ、それがいいわ、この先生き残るには戦力が必要よ」
「そうだね、教会団をどうするべきか考えているけど僕たちじゃ歯が立たない、その強い親御様と手を結べたら心強い」

「ふーん」

 一つナオコなりに考えて彼らと取引をすることにした。

「だったら、私を開放して、ならパパに言ってみるから」
「……それはできないな」
「えっ……」

「──君は僕の実験体として、様々な毒を口にしてもらわないといけないからね」
「何を言って……?」

 そのときだった、少しせき込み口に手を当てたとき、何か嫌な感触と口から飛び出たものがあった。見ると血に染まった手に虫がわいていた。

「何これ……?」
「君にもわかりやすく説明するとね、僕の能力は毒をもった虫を創る能力なんだ、困ったよ、この能力じゃあまともに戦えない、と云うことでね、いろいろ策を巡らせて生き残ってきたんだ、この生存戦争に──」

「あっ……」

 自分が騙(だま)されたことに気づいたナオコはこの場から逃げようとするが体が思うように動かない……しまった……。

「君みたいな弱そうなエインヘリャルは得難(えがた)いからね、僕の実験体になってもらうよ、──そう、毒の試験体としてね」

 男の笑い声が響き渡る、ナオコの体が痙攣(けいれん)し、血が口からとめどなく流れていく、流れ出る自分の血に虫たちが蠢(うごめ)いていた。パパ……、ママ……どうしよう……痛いよ……。

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