純愛異世界ファンタジー小説 終末のヴァルキュリア 第百一話 逆襲

2021年6月5日

「あ、あ、来るな! 来るな──!」

 キャラディスとか呼ばれた男はおびえ切っている、頑丈な鉄扉を破壊した威力に恐れをなしたのだろうか、抵抗らしい抵抗がない。僕は相手の能力を測りかねていた。──これは演技か? それとも罠か? 慎重に判断しなければならない。

 僕はRPGからMP7A1に武器を変えていた。狭い地下道だ、アサルトライフルよりもサブマシンガンのほうが面に対する攻撃が厚い。……そう判断した。そして、キャラディスを泳がせながら後を追う、まずは相手の動向を探らねばならない。昔の老婆の時やザメハのような近距離特化型の能力を備えていると厄介で、僕の苦手とする相手だ。保険はかけておかねば。

「メリッサ、相手をどう思う──?」
「私は、相手は戦闘型能力ではないと思う」

「へえ、それは何故だい?」

「あまりにも逃げ方が雑だ、場数を踏んでいないのだろうな。本気で追い詰めようと思えばお前の足でも追いつけるほど、足取りがちぐはぐ。まあ、お前は慎重な戦い方を好むから、それに越したことはないが、私だったら一気に潰す。先手必勝だ、何かされる前に何もさせなければいい」

 戦闘知識が豊富なメリッサらしい好戦的な意見だ、一つ試してみるか。僕は逃げるキャラディスを後ろから銃弾で胴体を狙った。映画で良く足とか狙うシーンがあるが、実際に逃げている相手を後ろから足には当たりにくい、走っている足は狙いから外れやすいし、距離感がつかめないからだ。弾の無駄使いは避けたい。

 見事に右わき腹へと弾は貫通した、キャラディスは情けなく「ひい⁉」などと声を上げる。どうやら、メリッサの推測のほうが正しいらしい、なら一気に仕留めるかと方針転換しようとした時だった。キャラディスは近くの扉の閂(かんぬき)をこじあけはじめた。ちょっと予想していなかったため僕は慎重になった、……罠なのか?

 扉を開けた瞬間、全身が血とひっかき傷にまみれていて血が通っていないかのような男と女たちがふらふらとこちらにやってきた、……腐臭はしなかったがゾンビに似ていると僕は思った。まずかったのが扉から出てくる屍人の数が多い、ざっと4,50人、これでは弾が無駄になる。

「メリッサ、すまない、こいつらを片付けてくれ!」
「当然至極! 久しぶりに体を動かすさ!」

 メリッサは素早く敵に向かって踏み込むとまるでバターを斬るかのように屍人たちの手足を斬り、倒れたところを頭に剣で突き立てる、まさに鮮やかと言うしかあるまい、単純な戦闘能力は僕なんかよりもメリッサのほうが上だな。次々とあまり長くない片手剣で、屍人たちを平らげた。あっという間に片付いたのでキャラディスは恐れをなして、メリッサが屍人をすべて片付ける前に扉をどんどん開けていき、援軍を増やす。

 ──これはこれでやっかいだ、弾切れをすれば武器交換をしなければならず、また、その時間がかかる僕には少々面倒な展開になってきた、メリッサの言う通り、事態がこれ以上悪化する前に、キャラディスを仕留めたい。

「メリッサ! 早めにキャラディスを片付けたい、突破口を開けるか?」
「お安い御用だ!」

 まるで舞うかの如く、華麗に切りつけていき、どんどん屍人たちの首をはねていき、キャラディスへと道を作ってくれた。すごいなメリッサ、頼りになるよ。

「佑月、早くいけ!」
「わかった!」

 そしてメリッサがこじ開けた道を僕は走り抜ける。ちょうどキャラディスが新たな扉を開けようとする瞬間に鉢合わせた。──そうはさせるか! 僕はすぐさまリトラクタブルストックを引き右肩に当て両手で奴の手をシングルショットで狙撃する。

「ぐあ!」

 片手の自由を失い、奴はひたすら逃げ始めた、バースト射撃で奴の背中を撃ち抜くが、奴の頭がハイになっているせいか、血を流していても止まらず、別の部屋の中に逃げ込んだ。……そのときだ。

「パパ────‼」

 横を見るとナオコが多分この街の住人だろうたちを連れて、こちらへ走り込んでくる。見ると屍人たちに追われていた。

「ナオコ! 僕の後ろに下がって!」

 彼女や住人が僕の後ろに下がるのを見届けて、フルオートで屍人たちに銃弾をお見舞いする。奴らは一気に倒れて体勢を崩し将棋倒しに屍人たちは転んだ。……しかし、数が多い! どうするか……。

「佑月きぃ──‼」
「ママ!」

 そこへメリッサが援軍にやって来てくれた。

「メリッサそいつらの相手を頼む!」
「了解だ!」

 その間ナオコを抱きしめた。

「──ナオコ、勝手にどっか行くなって言ったろ」
「ごめんなさいパパ! こわかったよ──!」

 僕の胸の中で泣き始めたので、彼女の涙を指先で拭(ぬぐ)った後、

「まだ終わってない、始末をつけなければいけないやつが残ってる」
「うん!」

 ──そして僕は目の前の扉を開けた。

「ははは……」

 そこでは狂ったように笑いだすキャラディスと屍人たちが20人ほどいた。

「どうやら、お前の能力は制限があるようだな、じゃなければその玩具で僕は死んでたはずだ……! これだけの数を一体どうするつもり……」

 僕は問答無用で屍人たちの頭をシングルショットで狙撃していく、メリッサが屍人の首をはねると動かなくなっていた、なら頭をつぶせばよい。次々と倒れていく屍人につれてどんどん顔が青ざめていくキャラディスだった。それに対し僕は冷静に言い放つ。

「次はどういう手段を持ってるかな、キャラディス君?」
「……はは」

 奴が空笑いを始めたのが目に見えて解った。どうやらメリッサの言う通りコイツは戦闘向けの能力を持ってないらしい。余裕がなさすぎる。

「僕の力を甘く見ては困るな……これくらい自分の力で何とか出来る」
「こいつの言ってることは嘘だよ! パパ!」

 いつの間にかナオコが僕の横に立っていた。

「パパ、コイツの能力はね、毒を持った虫で毒殺したり、正気を失わせて人を死人みたいにする力しかないよ、パパの敵じゃない!」

 ナオコ、助言有難う、良い軍師だ。あからさまにキャラディスは余裕がなくなり、慌て始め、言葉に詰まる。

「ナオコ、コイツ何をしてたんだい?」
「街の人々に毒虫入りの食べ物を食べさせて、自分の実験体にしてたよ、私も食べさせられた、こいつなんかやっつけちゃって、パパ!」

「と、言ってるけど、何か反論はあるかい、キャラディス君?」

 追い詰められたキャラディスは何を血迷ったかフラスコに入れた緑色の液体を手に叫び出す。

「ち、ちかよるな! この毒虫入りの液体を飲めば、力は数倍に膨れ上がり、お前の玩具など効かなくなるぞ!」
「じゃあ、飲めばいいじゃないか」

「えっ──⁉」
「だから飲めって言ってるんだ、もし言うことが本当なら、僕も困るが、何故もともとその虫を飲まなかったんだ? まわりくどく屍人を小出しにしてぶつけることなく、すぐさまその薬を飲んで、僕と戦えばいい──何の副作用もなければね」

 青かった顔からさらに血が引き、まごつきはじめる。

「ほ、本当に飲むぞ!」
「飲めよ、僕は弱い者いじめが嫌いだからね、それくらい待ってあげるよ」

 キャラディスのフラスコを持つ手が震えている。

「どうしたんだい、飲めよ……さあ、飲め! お前が住人や、ナオコにやったと同じように!」

 それを言われた瞬間、観念したのか、フラスコを落とし、緑の液体が床に落ちる、中には小さな虫が蠢(うごめ)いているのが視認できた。キャラディスは言葉が出ず、うっう……と唸(うな)っている。

「──僕なら飲んでたな、僕には守るべき家族がいる、必ずどんな汚い手を使っても、この生存戦争に勝たなければならない。お前は所詮、弱いものを自分の能力を使って、面白がって遊んでいただけの卑怯者だ、守るものもなければ、信念もない。だから諦めた……!」

 僕はうずくまっているキャラディスに近づき奴が顔を上げると同時に、彼の腹に銃を撃つ。近くで撃ったためほぼ致命傷に近いが、大事な心臓部などは避けており、命までは奪わない。

「……そんなお前にも使い道がある……!」

 奴が気絶した後メリッサが部屋に入ってきた。

「──どうやら終わったらしいな」
「……メリッサ、コイツを運ぶのを手伝ってくれ」

「ん? まあいい、何か考えがあるなら道すがら聞かせてもらおう」

 僕たちは無事ナオコとついでに生き残っていた住人を救い、この忌々しい地下室を始末して、後にした。

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