純愛異世界ファンタジー小説 終末のヴァルキュリア 第百四話 戦いの爪痕

2021年6月22日

 明々と陽光がまぶたに差し込んでくる。最近ここいらは太陽の日差しが痛いほど眩しい。そろそろ夏なのだろうか。太陽光に目をやられないよう目をゆっくりと明るさに慣らしながら見開く。しかし、外を見るともう夕暮れだ。……えっ、昼寝した記憶がわずかにあったが、こんな時間まで寝ていたのか。

 しまったなあ、今晩眠れるかな、少し寝過ぎた。

 外に出て恥ずかしくないようしっかり服装を整えて廊下に出るとナオコが走ってきた。

「パパ~おはよう! お寝坊さんなんだね」
「ああ、ごめんな、少し寝すぎたよ」

「最近ママと仲良しだね、そのせいなの?」

 な、なにを言ってるんだ、やめてくれ、ただでさえ見た目、歳の差が激しくて、周りから見損なわれるようなことしているかのごとくみられるではないか。……と思ったが、よく考えると僕たちはエインヘリャル語で話しているので、この世界の住人にこれ以上変な目で見られる心配はないか。

 ──僕はナオコの教育のため優しく諭す。

「ナオコ、人には言われると傷ついたり、嫌がったりする事柄があるんだ。多分君はまだ深くはわかってないけど、繊細なことはちゃんと相手の気持ちを考えて言うようにしなさい」

「えっ、私変なこと言ったの?」

 ……あっしまった、別に変なこと聞いているわけじゃなかったのか、勝手に誤解して、僕が動揺して、説教してしまったのか、ああ、やらかしたな。親というものは本当に難しいな、勉強になるよ。

「……ごめん、こっちが変なこと言ってたね、忘れてくれ」
「ううん、パパとママがそういうことしていることが分かった、絶対に忘れないから安心して!」

 げっ、コイツ……!

「こら、大人をからかうんじゃない!」
「へへん、パパ顔真っ赤、これって図星って言うんだよね」
「ませたことを言わない、本当に怒るよ」
「はーい、ごめんなさーい」

 そしてぺこりと頭を下げる。なんかメリッサに対する僕の真似をしているのだろう、変な感じを覚えて苦笑してしまった。そこにメリッサがやってきた。

「こらっ、他人の迷惑になるから騒ぐなって言っているだろ」

 メリッサは階段を上がって、僕が寝ていた宿の二階の部屋にやって来る。声大きかったかな?

「……おはよう、最近お前も戦いに自信が出てきたようだな。いい傾向だ」
「そういえば、街はどうなっているんだい? リリィやキャラディスが暴れたせいで民間人に被害が大きかったんじゃないか?」

「そうだな、もう無茶苦茶だ。リリィが都市中央部を溶かしまくって、行政機関がストップしているし、キャラディスの毒実験のせいで民衆が他人に対して疑心暗鬼になり、市民の中で不安が広がって、あっちこっち争いが起こっている。

 そして、そうこうしているうちに、この町の支配層である貴族や神官に向かって日ごろの貧富の差に市民の不満が爆発して、いまや混乱状態に陥っている」

「都市に配備されている警護の兵でも人々を統率できない状態にあると言うこと?」
「そうだ。むしろ、ここぞとばかりに反政府活動家が民衆をあおってる。都会というものは色々と面倒なことが多いんだよ」

「今は外には出られない状況か」
「まあ、そういうことだ」

 不安を抱えつつも夕食の時間がやってきた、メリッサが軽い食事を運んできてくれたのだ。ふわふわの柔らかいパンとコトコト煮込んだ野菜スープがやって来る。湯気の中にそっと顔を入れると、香りが立ち込める、う~んいい香りだ。


 パンを口にする。中には柔らかい鶏肉が入っていた。ゆっくり煮込んで味をしみこませた鶏肉。旨みが、噛みしめるごとにじわりと口の中で広がる。

 そして今度は湯気の立った澄(す)んだスープを口にする。ここは都会だ様々な野菜が手に入る、香りに酔いしれ、様々の野菜の味の豊かさのなかでハーモニーが生まれ具材を口の中で転がしながら楽しむ。本当メリッサのおかげで食事に飽きが来ないよ、異世界には必須のヴァルキュリアだな。はは……。

 まさに戦いの疲れを癒すにはもってこいのメニューだ。多分メリッサが僕のことを気遣って考えた献立(こんだて)だろう。ああ、柔らかな味に心が安らぐ。

「どうだ? 料理は口に合ったか?」
「メリッサの優しさの味がしたよ」

「……何言ってるんだ、バカ」

 少し照れた様子で頬を染めてぷいっと首を横向ける。可愛い妻がいると、毎日が新鮮だ、味わい深い。──独特の大人の愉(たの)しみに浸りながらふと、窓の外を見た。

 都市の人々が殴り合っている、もはや暴徒だ。ちょっとこの前、レンカの灯の中で祭りを祝った仲なのに、今では憎しみ合う相手になっている。

 ──この光景はナオコに見せたくないな、教育に悪い。人が集まるとこんなに愚かになれるのか、なんだか哀しくなってきた。

 こういうストレスを発散させるためにパレードとかを用意していたんだな。みんなの気の紛らわしになるだろう、例えピエロ役でもこんなことになるくらいならやっていれば良かった。当事者であった僕は少し責任を感じていた。

「どうしたんだ、うかない顔をして」

 メリッサが心配そうに見つめていた。

「いやね、リリィを倒したときにパレードの申し入れが合ったろ、やっていたら、こういう亊にはならなかったんじゃないかってね」

 僕は、親指で外を指さす。

「それは関係ないぞ佑月。これは政治の問題だ、お前が責任を感じる必要は無い。

 本来、市民をまとめるべき市長だって、今じゃあ市庁舎から一番最初に逃げ出して、自宅に引きこもった次第だ」

 ……はあ、人間とはこうも醜いものか。

「でもこのままだと、こちらにまで被害が出てしまうかもしれない。ほら、二人なら逃げ出せばいいが、ナオコもいることだし」
「あまり気が進まないが、そう言うならなんとかしてみようか」

 僕たち二人は宿から外に出ていく。メリッサが、よく通った声で人々に語りかける。

「諸君、よく聞け! 私ととなりいる佑月というものが、悪の魔女を倒しこの街に平安をもたらした。それなのに諸君は何故争うのか!」
「そいつはありがとよ! でもなあ、これは俺たちの生活の問題だ! よそ者に関係ねえ!」

 中年の男の声が聞こえてきた。現地語は僕にはわからない。

「あの女のせいで私たちは家を失った。あんたたちがなんとかしてくれるとでも言うのかい!」
「そうだ、そうだ!」

 老婆の声に人々が同意し、となりの人間を殴りつける。

「そうだ諸君、そのとおりだ」

 静かにメリッサはうなずいている。

「諸君の暮らしは、諸君らの代わりに諸君らの代表がなんとかするべきだ! しかし諸君は何故、同胞を傷つける⁉

 これは貴族たちの陰謀ではないか! 諸君たちが相争うことで、貴族たちが自分に矛先が向かないようにしているのではないのか!」
 一瞬で辺りの雰囲気が変わった、人々がメリッサの演説に聴き入っているようだ。

「本来、諸君たちの税は何のために納めているのか! 貴族たちを肥え太らせるためか!? そうではないはずだ、当然、諸君らのために使うべきだ!」
「そうだ!」

 若者たちから同意の声だろう、僕には言葉がわからないがニュアンスはわかる。

「なのに市長は何をしたか! いの一番に逃げ出したというではないか! 諸君らの怒りはよくわかる。だがその怒りは貴族たち、引いては市長にぶつけるべきではないのか!」
「そうだ! そうだ!」

「なら諸君たちとともに市長の家に向かって、怒りをぶつけ、諸君たちの税を取り戻そうではないか! 正義の御旗のもと、悪逆なる搾取をやめさせるのだ! 我らの英雄佑月とともに、いざゆかん! 付いて参れ!」

「おおぉ────!!!」

 人々から喝采を浴びて、僕たちの後ろに付いてくる。メリッサが先導して、大きな館に向かった。後ろを見ると、何万という人々が付いてきた。……おいおいメリッサ、これどう収集つけるつもりだ……?

「税金を下げろ──!」
「パンをよこせ───!」
「家を返せ──────!」
「貴族のブタどもを殺せ─────!」

 人々は、おのおの叫びながら石や木の棒を館に投げつける。彼らに押されて何が何だかわからない。メリッサが、腕を引っ張って行列団体の外に導いてくれた。

「一体どうなっているんだ、メリッサ?」

 少し落ち着いたところで疑問をぶつける。言葉がわからないから詳しい状況は理解できない。

「人々を扇動して責任全部を市長に押しつけた。あとは政治問題だ。戦乱の中、家の中でぐ~すか寝ていた貴族たちの目覚ましになるさ、まずは初仕事としてパニックをなんとか収めてくれるだろう」

「よくもまあヌケヌケと」
 コツンとメリッサの頭を優しくこつく。

「……なんだよ、嫌いになったか?」
「違うよ、惚れ直したよ、さすがメリッサだ」
「ふふ……」

 僕たちは笑いながら宿に戻る。窓の外を見ると人々はいない、市長の館を囲んでいるのだろう。遠くで騒ぎの声が聴こえるがここら周辺は静かだ。

 僕は質の悪いいたずらっこのメリッサにキスをして、彼女の柔らかい体を抱きしめながら静かに夜は更(ふ)けていった。

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