純愛異世界ファンタジー小説 終末のヴァルキュリア 第百五話 嵐の始まり

2021年6月24日

 夜が明け、今日も気持ちのいい朝が訪れたなあ。昨日は良く休めた、筋肉がよくほぐれており、小気味よく首や腰をならす。

「おはよう」

 メリッサが唇を当てて来た。ほんのりとした温かさが僕の唇を安らげる。僕の唇は君のためにあるよ、メリッサ。

「おはよう、メリッサは最近、早起きだね」
「毎日、朝早くにパンをこねないといけないから、最近は早起きだな」

 そうか、美味しい朝食を僕に届けたいから、裏で頑張っていたんだ。

「メリッサ……」
「ん? どうした」

 一呼吸を置いて僕はメリッサをまじまじと見つめている。

「……愛してるよ、メリッサ」
「バカ……」

 彼女は、後ろを向き、もじもじしながら笑っている。どんな美辞麗句よりも単純な言葉のほうが気持ちが伝わるもんだ。彼女の様子に微笑みながら料理のほうへ目を向けた。

 さて、今日の朝食はパンと野菜の盛り合わせと肉のスープだ。中の肉が崩れ落ちそうに柔らかそうで生唾が出てきた。パンに噛みつくと、中にはソーセージが入っており、噛んだその瞬間パリッと弾けて肉汁が口の中に流れ込んでくる。

 ふむ、肉を煮込んだスープは味が濃く、軟らかさと肉の厚みと旨みのこもった肉汁が口に広がり、すすりがいのある重厚感を感じた。そして野菜のシャキシャキとした食感を楽しんだ。相変わらず、メリッサの作る料理は美味い!

 中世だからメニューは限られた物しか作れないので料理のメニューを考えるのが大変だとメリッサはいつもぼやいていた、ところが限られた食材で鮮やかに彼女は食を楽しませてくれる。なんだか食べているとふつふつと恋しさがわいてきた。

「──メリッサ、結婚しよう」
「ん? 式の話か、まだちょっと待ってくれ。いろいろと考えているから」

 やっぱり、考えててくれていたんだな、こういう、メリッサの女の子の部分を覗けると嬉しくなる

 突然外から歓声がわき上がってくる。何だと思って窓の外をのぞく、けれども僕には言葉がわからないから状況がつかめなかった。

「メリッサ、何か起きたのかい?」
「ちょっと調べてこようか」

 そう言うと、埃(ほこり)を立てずに早々に外に出かける。ほんとよく出来た妻だなあ。よく考えると一人の男につき一人メリッサがいると、世界は幸福で満ちているだろうなあ。でも、メリッサは僕だけのモノだ、誰にも渡さないさ。

「パパ~!」

「どうしたんだナオコ。走ったらダメだぞ。ママに怒られるぞ」
「ねえ、遊ぼ、遊ぼ。最近パパ遊んでくれなくて寂しいよ~」

「そうだったかな。よし! パパと遊ぶか」
「うん! お人形さん。新しい人形をママがくれたから、一緒に遊ぼー」
「そっか。それではお嬢さん、パパの名演技を見せてやろう」

「ああ、王子様~、私があなたの支えになります~!」
「うるせえ、このブタ! ドカッ、バキッ!」

「あれ~王子様⁉ ひゅ~るるるる」
「流石だわ王子様! 突然やってきたふしだらな悪女を何も言わずに成敗するなんて、素敵!」

「へへ、王子様見事でございます、振り向きざまにリバーブローからのブラジリアンキック、流石ですな」
「てめえも失せろ! ドカッ、バキッ」
「ああ、なんてすごいの! 王子様ったら突然出てきた悪人をわずか2.4秒で退治するなんて、ああ~王子様~、愛してる~! ららら~らら~ら~ら~」

 僕の一人の人形演劇にナオコもニコニコしている、よし、ウケてるウケてるぞ!

「──佑月、大体わかったぞ」

 その刹那、突然メリッサが入ってくる、お嬢さんを楽しませるために僕は、高校の演劇部がやるロミオとジュリエット並みの名演技をしていた。

 ……メリッサは何も言わない。おい、何か言ってくれ、微妙な空気になっているだろ。つらいんだよ、こういう雰囲気は。

「……どうやらお取り込み中のようだな」

 冷静につれないお言葉。わかったよ、役者の夢は諦めるよ。僕はため息をついて、自分の演技の才能のなさに嫌になる

「それで、街はどうなったんだい?」

 僕はナオコを膝に乗せてベッドの上に座っていた。子どもはあったかくて、側にいるとすごく心地いい。いやらしい意味じゃないから誤解しないでくれ。

「どうやら、この街は共和制になったらしい」
「……どういう意味かわからない」

「昨日のデモのあと、市長の館の門を民衆たちが突破して、三階から窓の外へ市長を放り投げたらしい。市長の生死は不明だ。

 その後、民衆が次々と貴族の館を襲って反政府活動家が共和制宣言を出して、教会団による神権政治から共和制に移行した」
 
「一晩で! 歴史的大事件じゃないか!」
「一週間後、普通選挙をやるそうだ。民衆側に寝返った警護の兵は、街を封鎖して、教会団と一戦交える覚悟らしい」

「……きな臭くなってきたな」

 僕がそう呟くとメリッサは、少し珍しいモノを見つけたかのようにこちらを見る。

「佑月お前、政治に興味あったのか?」
「いやそうじゃないけど大変だなあって」

「……こっちはいい迷惑だ、うかつに外に出られない。佑月が、政治家になって事態をまとめるなら協力するつもりだがな」
「僕に政治家なんて無理だよ、だって他人がどうしようが興味ないから。人に頼られた経験も無いし、それにそもそも言葉が通じないしね」

「それは結構だ、私たちは生存戦争の中にある、他人の命をどうこう言っていたら生き残れない。戦争で生き残るのは得てして悪人だ、真っ先に死ぬのが善人。他人なんてどうでもいいってことに徹してくれればありがたい」

「街が封鎖されているなら、少しの間ここで落ち着くか」
「戦争に巻き込まれる可能性があるぞ」

「人間の武器に対しては僕たち不死身じゃないか、危険だったら混乱している時に逃げ出せばいい」
「そうだな、まあ、本音のところこれから教会団がどう出るか知りたかったしな、様子を見てみるか」

 意見が一致した。そう言えばメリッサと行動方針で揉めたことがないな、いつの間にか彼女にコントロールされているかな、そう考えているとそっとメリッサが隣に座って手を握ってくる。

「どうしたんだい? 気分が悪いの」
「ううん、そうじゃないが、不安なんだ。これから教会団と対決することになる。おそらくこれ以上はないほどの激しい戦いになるだろう。だから……」

「──メリッサは僕が守るよ」
「えっ……」

「僕が、メリッサを守るよ。絶対にこの手を離さない」
「佑月……うれしい……」

 僕たちは唇を合わせる、この手を絶対離さない。僕はメリッサと生き延びて、この愛を永遠にするんだ。一抹の不安を感じながらも僕はすっかり油断していた、これからやってくる相手があんな奴だと知っていたらもっと事前計画を練っていただろうに。

 ……しかし奴はゆっくりとこちらにやって来るのだった。

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