純愛異世界ファンタジー小説 終末のヴァルキュリア 第百七話 混迷するミランディア

2021年6月28日

「事情は理解した」

 ミランディアの教会の中で僕は頭を抱えた、こういう事態は考えてなかった、民衆とはこんなにももろいものか。メリッサのちょっとした質(たち)の悪いいたずらだと思ったらここまで事態が発展しているとは。

「まさか、リリィを倒したのと、デモを扇動したことによって、佑月が革命の英雄に祭り上げられているとはな」

 苦虫をかみつぶしたような表情のメリッサ。

 教会の中には、反政府活動家、そして下流貴族などの代表とオーディウス神父みたいな聖職者などでミランディアの街のことを話し合っていた。

「是非ともミランディアの代表として、市長として佑月様にはお務めいただきたい」
「街は混乱の一途をたどっております。誰かが民衆を導かないと」

 彼らは何かを言っているが僕には、この世界の言葉がわからない。勝手に自分の運命を決められているみたいで、不快感をおぼえた。

「佑月様には言葉の壁がございます、市民ではない方にこの街の運命を任せるのは、いささか不都合がありすぎるのではないですか」

 オーディウス神父が共和制の代表たちに何やら語りかけていた。

「神父には今の状態がわかっておられない」

「そうだ。ミランディアには十万の市民がおるのですぞ。貧富の差、学の差、根本に秘められた差別意識。それぞれが絡み合って様々な勢力で争っておる。

 ここに集まっているのは比較的話しがわかる代表ばかりで、道理がわからぬ連中などいまだに武器を持って暴れ回っておるのです。
 
 誰かが早く市民をまとめないと、とり返しの付かないことになりますぞ」

「そう、ここは佑月様に立っていただいて……」
 場が荒れている中メリッサが人々の中央に立って言い放った。

「お断り申し上げる」
「なんと!」

 メリッサの言葉に人々が詰め寄っていく。

「英雄佑月は、義憤(ぎふん)によって悪しき魔女を退治しただけのこと。この市民のことは我らに関係ない。勝手になさるがよろしかろう」

 冷たい口調で判らない言葉でメリッサは彼らにきつく浴びせる。

「市民を見捨てるおつもりか!」
「何万人被害が出ると思っておるのか!」
「今更、他人行儀などと」

 代表たちはメリッサに罵声を浴びせる。周りを僕は見渡す。オーディウス神父がうつむいて黙っている。

「メリッサ、オーディウス神父に意見を聞いてみてはどうだ?」
「ああ、わかった。佑月」

 喉を鳴らして、静かに問いかけるメリッサだった。

「オーディウス神父の見解はいかに?」

 神父は顔を上げはっきりとした口調で語り始める。

「メリッサ殿のご意見が正しいと存じます。もともと教会団の政治が嫌で共和制に移行したわけです。それが今更、にっちもさっちもいかないからと言って、責任を佑月様に押しつけるのはあまりにも道を違(たが)えておりましょう。

 ここは皆が一つになって、自分たちのことは自分たちでどうにかするべきかと存じ上げます」

 しかし、小太りの貴族が声を上げる。
「これはおかしなことを申しますなあ、神父。神父は教会団の一員のはず、それが共和制に賛成するようなことをおっしゃる。貴方は教会団に背くおつもりか」

「背くも何もありません。こうなったのも神のご意志です。それを世俗の権力で押しつぶそうなどとは考えてはいけません。私はただ、神の道を説き人々に慈愛を理解していただくのが勤めと思っております」

「非現実的すぎる」

 代表たちは、やれやれといった様子で目をつぶる

「メリッサ、話し合いはどうなっているんだ? どうにも僕には、上手くいってないように見える」
「どうにもなっていない、まさに堂々巡りだ」

「それならこう伝えてくれ、まずは治安の回復が必要だ。裕福なものは兵を出し合って、共同で治安を安定させる。

 その次に各々(おのおの)の主張のもとに党派を組んで、普通選挙に全力を尽くす。選挙妨害は御法度(ごはっと)だ。治安部隊には、テロを警戒して道を封鎖させよう。

 最後にデモの禁止。これ以上、暴動を起こさせるのは賢くない。集会は決められた場所のみ許可する。

 ──これでどうだ」

 僕の言葉にあきれた様子のメリッサ。仕様が無い、僕も男だ。出来ることはやるさ。僕が言ったことをメリッサが訳すと、代表たちは納得し、すぐさま教会から出て行く。

「情けない話しです」

 オーディウス神父が何かつぶやく。

「まったく嘆(なげ)かわしいことです。彼らがこの街の代表だというのに、自分の都合しか考えていない。

 今考えるべきことは、食事すらまともに出来ない家を無くした人々がいるということなのに。何万という人々が、路頭に迷っているという話しではありませんか。

 彼らには慈悲を与えないのでしょうか?

 権力を手にしようと企み、人を利用し、己のために生きる。なんと浅ましい。神の言葉があの方々には聞こえないのでしょうか」

 「オーディウス神父のお気持ち、お察しいたします」

 神父の嘆きに同意するメリッサ。何が正しいのか僕にはわからない。ただ、今できる最善の選択をしようと僕は試みる。

 教会から出ると、あたりはもう真っ暗だった。ナオコを置いてきたままだ、心配だ。道すがらメリッサは肩を寄せ軽く僕の手を握る。

「少し、寒いな」
「そうかな、いや、そうかもね」

「……なあ、私を置いていったりはしないよな?」
 ギュッと手を握りしめるメリッサだった。

「何言っているんだ、当たり前じゃないか、いつも僕はそばにいるよ」
「なんだか佑月が遠くに行ってしまいそうで怖い……」

 少し不安げな表情だった。彼女にしては珍しい。僕は、彼女の肩を強引につかみキスをした。

「──離したりなんかしない、メリッサ、君は僕とずっと一緒だ」

 そっと目を閉じるメリッサ。

「嬉しい……私も同じ気持ちだ。大切にしてほしい……」

 僕たちは何かしら漠然(ばくぜん)とした不安を感じながら、ナオコが待つ宿へと足をそろえて入っていった。

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