純愛異世界ファンタジー小説 終末のヴァルキュリア 第百十話 残酷な信条③ 

2021年7月3日

迫り来る雷(いかづち)、輝く雷光。僕は慌てて移動し、身を伏せてかわそうとする。だが稲妻は僕を追って閃光を放つ──!

「グッアッ!」

 左手がわずかにかすり、僕は、体ごと空中へと弾き飛ばされた。大きな音を立てて、教会のわたり廊下の屋根に僕は打ち付けられる。煉瓦の屋根にたたきつけられて、五体がバラバラになりそうだった。

 うめきながら左手を見ると、真っ黒に焦げており、感覚が無くなってしまっていた。

 くっ左手は使えないか……! MP7A1の銃床(ストック)を、左肩に押しつけて折りたたみ、片手撃ち用に変える。

 相手に追撃される前に僕の銃が火を噴いた! アウティスは光の球体を消し、またもや片手をかざす。風圧が感じられて、弾が溶けていくのが見えた。

 ──なるほどそういう仕組みか。

 今わかったことは、ヴィオネスと違ってアウティスは様々な能力を使えるけれども、同時にいろんな能力を使えるわけではない。一度光の球体を消してから、謎の風圧がする領域で弾を消した。それが理由だ。

 そして判明した能力のもう一つは謎の風圧の正体だ。奴が手をかざすと透明の膜のようなものが出来ていたようだ。僕の世界で言う大気圏のようなものだ。物体が大気圏に突入する時、熱の壁で断熱圧縮が起こり、超高温が発生し物体が溶ける。

 それと同じようにアウティスの能力の一つは、ある一定の空間域で物体を加速させ、マッハ3のスピードまで僕の弾を加速させて熱の壁を超え、物体が断熱圧縮により350度以上に加熱させられる。それで銃弾が溶けて消えていったというわけだ。

 しかし、能力が一つしか選べないというのは重要だ。僕の中にある予感が走る。そうか、だからメリッサが、アウティスからエインヘリャルの気配を感じ取れなかったんだ。……僕は少し鼻で笑った。

「アウティス、お前たち教会団が、エインヘリャルの戦いを放置している理由がわかったよ」
「……ほう、面白そうだ、是非聞かせてもらいたいな」

「お前たち教会団は、エインヘリャルに争わせて優れた能力のデータを集める。そしてその能力がお前、アウティスが複製してしまえば楽に生存戦争で勝利を収められる、そうじゃないか?」

 笑みを浮かべるアウティスだった。僕は話を続ける。

「お前はザメハのエインヘリャルの気配を察知されない能力を複製している。だからメリッサや他のヴァルキュリアが察知できなかったんだ。

 ザメハが言っていた。教会に捕まった時、おっさんに解放されて、好きに殺人していいって言っていたってな。あれお前だったんだな。

 エインヘリャルは、ヴァルキュリアかエインヘリャル以外に話すことが出来ない。だから、ザメハを自由にさせてヴァルキュリアに察知されない能力が実際にどのように戦闘で有用に通用するか実験していたんだ。」

「面白い、続けたまえ」

「他にもララァとリリィを教会団の刺客として使っていたということだ。ララァの時間変革能力は優れた能力だが、不安定な要素が多い。またリリィの黒い球体の能力もどういう使い方をすれば有効か確かめる必要がある、つまりデータが必要だ。

 だから、日向(ひゅうが)さんを倒した僕にぶつけたんだ。データをとるためにね。そしてそのデータを元にお前は、生存戦争を確実なものとしようとしている。

 アンフェアなやり方で確実のこの戦いを勝ち進める、これがこの世界の権力者のやり方、それがお前の正体だ」

「……効率的と言ってもらいたいね。生存戦争には不確定要素が多すぎる。だからわざわざ仕組みを作って勝率を上げようと努力をしているのだ」

「そこまでして何故勝ちたい? すべての世界から十二人しか生き残れない終末戦争だ。お前たち教会団もいずれ崩壊することは決まっている、組織にエインヘリャルに関わるものが多ければ結局、仲間同士で争わなければならない」

 僕の疑問に対し、アウティスは大きく笑った。

「いずれ滅びることはわかっているのだ。なら新世界で我々の理念を後世に伝えることが我らの役目だ。それがお前にはわからないのか?」
「なんだと?」

「教会団は千年もかけてその理想、信条を磨き続けた。今私がこうしていられるのも偉人たちのおかげだ。その文化遺産をラグナロクで消されてしまっては、我々は何のために試練に立ち向かったか、わからないのではないか?」

「それが教会団の目的か!?」
「そうではない、これは理由の一つにしか過ぎない。我々の真の目的は神の教えによる新世界の創設だ!」

「神の教えによる新世界の創設? 馬鹿な」

「事実この世界はあまりにも理不尽だ。努力した者は報われない、生まれによって人生が決められる、正直者がばかを見る。実に不愉快な世界だ。

 だが、それも、ラグナロクで終わる。すべての腐った人間は死に十二人だけが生き残る。

 ──その時、神の教えを受けた者たちだけで勝利した場合どうなるか? この世から貧富の差がなくなり、正義が正しく行われ、欲に満ちたブタどもは消えて無くなる。
 
 実に素晴らしい──!

 我々の目指す神の千年王国は新世界において達成される。これほど美しいものはない!」

「馬鹿なことを。神は人を救わない、人も人は救わない。だから愛する者だけを救う。どんなに突き進んでも人間は人間だ、それは変わりない。例えお前が何百万回神の教えを説いても、追い詰められれば人は自分たちの幸せのためなら他人を犠牲に出来る。

 自己犠牲や正義を説いても、それは結局は自分のため。お前も、自分が歴史的な人物、神に選ばれた人間と勘違いして今オーディウス神父を、人を犠牲にしただろ。それを今更神の国だと言われても、最後は自己矛盾に陥るだけだ」

「……人はそれを乗り越えられる、神の導きさえあればな。もはや、人々は快楽のために時間や金を浪費することはない。ちっぽけなプライドのために、競争する必要は無い!

 神に仕えることこそが、すべての人間の幸福。心を清め、ただひたすら他者のために生きることが出来るのだ。

 その機会がラグナロクだ。そう、神は言っているのだ! 神に選ばれた人々たちで世界を作り直すべきだと!」

「それは傲慢(ごうまん)だ。人にそんな力は無い。結局、誰かを犠牲にするだけで、人類全体の幸福など訪れない。例えお前たちの計画通り、教会団が勝利しても、いずれ誰の主張が正しくて、誰が神に選ばれた者か相争う運命だ」

「犠牲が怖くて、神の教えが広められるか!」

 ……神父に説教しても無駄か。こいつとはいくら話しても平行線。戦うしかない。僕とコイツの信念は水と油、家族のために戦うか、神のために戦うか、結局のところ犠牲を生むが、こいつらは神のために家族すらもいけにえにすることを強いる。

 だから僕はコイツを倒さなければならない、決意を新たにして、奴との対決に臨(のぞ)む。

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