純愛異世界ファンタジー小説 終末のヴァルキュリア 第百十四話 地獄から

2021年7月9日

 ここはヴァルハラか……? 何も見えない。僕は何度死んだのだろう。何も聞こえない。じっとしていると胸の扉を叩く音がする、開いた瞬間、世界が広がる、風が胸に差し込み、外に広がるあれは空、雲、太陽。きっと僕は鳥になったのだろう。

 僕は空の上へ羽ばたいていく、翼が空気をあおってどんどん上っていく。僕の羽根が透けている、そうか、青い空に僕はなったのだ。白い雲が下に見える、そうだ、僕は空なんだ。

 目を見開くと、目の前は赤、赤色の世界。紅蓮の炎に包まれ血が流れ落ちている。ここはヴァルハラでも天国でもない。地獄、しかも現実の。僕は生きている、アウティス何のつもりだ……?

 ゆっくりと立ち上がった、赤く染まった街、人々の死骸。肉の焼け付く匂いと、鉄の匂い。汗がじっとりと流れ落ちていく、血の雨が降っていた、空を見上げると赤く染まっている。

 これは焼かれているのか、この街が。人々の叫び声が聞こえている、人が殺されている音、壊れていく、平和な街が壊れていく。

 一歩ずつ歩を進めていくと、神へと自由を叫んだ結果がこれかと絶望感を抱く。黒い服を着た兵士が女の人を殺している、教会団の兵士だろう。助ける余力もなく止める気力もない、弾も無駄になる、だから僕はただ立ち去った。メリッサ……はどこだろうか。

 メリッサ……、ナオコ……

 ───ナオコ!!!

 そうだ呆けている場合じゃない。街が教会団によって焼かれているんだ、共和制に対する恐怖の十字架を打ち付けているのだろう。ナオコを宿に置いてきたままだった、急いで走る。

「助けて――! パパ――! ママ――!」

 教会団に襲われていた、危ない──ナオコを助けるため僕は貴重な銃弾を放った。

「パパ……? パパ!」

 そして、ナオコを救った。黒いサーコートを着た兵士はこっちに気づかず剣を振り上げていたため、MP7A1の一発で心臓を撃ち抜いた、即死だったようだ、危機一髪だった。メリッサが行方不明の今、ナオコに何かあったら死んでも死に切れない。

「パパ! あのね、宿の部屋でじっとしていたら、いきなり黒い人が入ってきて宿のおばちゃんをいじめるの! ダメって言ったら、黒い人が追っかけてきて、すごい怖かった。ねえ、なんで街を燃やしているの? 何かあったの、私、わかんない!」

「……大丈夫……、大丈夫だよ。僕が来たから安心だ。何も怖くないよ──」

「ねえ、ママは? ママはどこ? 怖い目にあってないの?」

 僕は息をのむ。ママは……!

「……ママは、今ちょっと遠くに用事に行っているんだ。大丈夫、ナオコには僕が付いているからね」
「ママが可哀想! だって、パパと一緒じゃないから!」

「そうだね、ママに会いに行こう」
「ママがどこにいるか、わかっているの?」

 どこに行ったかもわからないメリッサ。アウティスに襲われた時、一緒にいたのに周りを探してもいなかった。ナオコのところにも来てないようだ。じゃあどこに行ったのだろう……?

「大丈夫、パパに付いてきて」 

 ナオコの手を握る、とりあえず街の外に出よう。このままだと危険だ、燃えさかる街、汗がじっとりにじみ、靴の裏が地面にひっついたようだ。

 ところどころで町の人が襲われているのを見かけたが、僕は素通りした。メリッサが行方不明な以上、銃の弾を消費するわけにはいかない。ナオコに、教育に悪いため見ないように指示する。

 まさに地獄を体現したような光景だった。人々の死体が散乱して、道が赤く染まっている。警護の兵はどうなったのか? いや考えなくてもわかる。アウティスがいれば中世の兵士など虐殺出来る。

 僕がアウティスを倒し損なったせいだ。あの時メリッサをかばわずに、アウティスを仕留めていれば、こんなことにはならなかった……。

 胸が切り裂かれそうな人々の絶叫。ナオコには耳を塞ぐように言った。僕は耳を塞ぐことは出来ない。……これが結果なんだ。その他大勢の人よりもメリッサを選んだ、その結果なんだ。十数万人の街が滅びていく。ミランディアの歴史の終焉だろう。 これは僕の責任だ。

 街の門へとたどり着くと、やはり黒服の兵士に門を封鎖されている。仕方ない……MP7A1のセレクターをフルオートに合わせる。弾を無駄遣いしたくないがこのままだと埒(らち)が明かない。銃を構えたその瞬間だった──

「……エインヘリャル出てきなさい!」

 女の声が聞こえる、まさかヴァルキュリアか……? そうだ、ヴァルキュリアからは100メートル以内は感知出来るのだった。門からすぐ近くの家の影に僕は身を潜めていた。なら気づかれて当然だ。

「……出てこないのなら……!」

 女の声が苛立っていった。このままもめるのはまずい、状況がつかめない以上、下手な行動は避けたい、いったん敵の様子を探ろう。

「待て!」

 僕は姿を現した。ここは交渉だ、なんとかして弾を消費せずに切り抜けないと、黒い兵士がこちらをにらみ血の付いた剣をちらつかせていた。

「──お前たち、下がれ!」

 黒い兵士たちをかき分けて、ぴっちりとした白い服を着た金髪の女が現れた。

「アナタ名前は?」
「そう、僕は佑月だ」

 すると鋭い表情をしていた金髪の女性の頬が緩み、柔らかく微笑んだ。

「はろー、貴方が佑月なのね。はじめまして、会えて嬉しいわ」
「……どうも」

 なんだか親密そうに話しかけてきた。何が目的だ……?

「ああ、お前たちもういいわ、他の任務でもやって暇をつぶしなさい。私はこの人を案内しないといけないから」

 女性は黒服の兵士に引き退くよう指示したようだ。兵士たちが去っていく。現地語だから僕にはさっぱりだ。

「どういうことだ?」
「貴方のヴァルキュリアに会いたいでしょ?」

 ……何のつもりだ、メリッサの居場所を知っているとでも言うのか。

「私はエイミア。そうね、貴方にはアウティスのヴァルキュリアといえばわかるかしら──」

 エイミアと名乗った金髪のヴァルキュリアは静かに微笑んだ。

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