純愛異世界ファンタジー小説 終末のヴァルキュリア 第百二十一話 開戦②

2021年7月18日

「佑月ぃいいいい───!!」

 メリッサの声が響き渡った。ドォンと大きな音を立てて、閃光が地面を打ち砕く。

「何だと……!?」

 僕は首を横に向けギリギリのところで閃光を避けていた。頭の中に文字が浮かんでくる。

My saying is translating an English into Japanese.

……完了

 閃光からの発射の速度、幅を記憶中のデータからシミュレーション開始、光の球への入射角、反射角測定、閃光の軌道を特定。脳の神経系にインストール、反射神経を最適化、クリーンナップ完了。

 ──そう、またあの感じだ。ザメハに何度も殺された時に頭の中に現れた文字群。メリッサの頭の中には、その道の達人の技術をデータ化していると言った。きっと、彼女の中でプログラミング化されているのだろう。

 それを何かのきっかけで僕が入手してしまったとしたら? メリッサは言っていた、そのような膨大なデータは脳を破壊し、その結果狂人になってしまうと。僕は狂ってしまうのか……?

 優れた力ゆえの代償、僕の頭の中に広がるロストテクノロジーに一抹の不安を感じながらもゆっくりと立ち上がった。まっすぐMP7A1を構え直す。

「貴様どうやって今のをかわした? 常人の反射神経ではなかったぞ」

 うろたえるアウティス、動揺しているのは僕も同じだ。こうなってしまったんだ……もう取り返しがつかないかもしれない。

「さあね、出来てしまったんだから仕方ない。それとも僕に時間変革能力が備わってしまったのかな」
「戯れ言(ざれごと)を……!」

 苦虫をかみつぶしたようなアウティス。メリッサはおろおろしている。

「佑月お前どうしたんだ……? お前には日本の現代人以下の運動神経しか持ってないはず。何故……?」

 彼女に今の自分の状態を説明して、自分を失う恐怖を和らげたい感情と不安にさせたくない想いが交差する。そして、僕は自分を押し殺すことを選ぶ。彼女のために僕は悪魔と契約したんだ、そう思えばいいさ、……ここは強気で押し切ろう。

「さあ、これでおしまいか。日向(ひゅうが)さんに負けたのもうなずけるな……!」
「その名を口にするな!」

 アウティスの怒声がひびき、青い光の球体から閃光が生まれてくる!

 僕の中には未来が見えると錯覚するぐらい浮かび上がっている小さな球体にランダムに反射する閃光の道筋が頭の中にイメージ出来た。その中をかいくぐり安全地帯を見つけると、そこでアウティスに対し銃を構えた。

 頭の中が冴え切って正確に弾丸がアウティスの胸を貫く! すかさず時間変革能力で無かったことにするアウティス。それを待っていたんだ……! 時間変革能力を短時間に複数使うとこの世界の時間軸では無効化されてしまう可能性がある。そこが狙い所だ……!

 ──バースト射撃で銃が火を噴いた!

 ドッドッドッと軽快な音で飛び出す弾丸だったが、奴は光の球体を消し、透明の膜を張った、そして、弾丸はマッハ3を超え燃え尽きる。その手があったな……! アウティスは右手を払い風の刃が宙を舞った。

 風のスピード、加速度を記憶から測定。シミュレーションを並列化して3次元データとしてインストール完了。立体シミュレーションとしてアプリケーション、構築、インストール完了、起動……。

 頭の中に文字がよぎる。生み出された風の刃たちを全て紙一重で避ける。僕は一直線にアウティスに走って行く! 至近距離でアウティスの腹を撃ち抜いた。そのまま近づき、奴の首元にMP7A1を突きつけた、アウティスはひるむことなく僕の手をなぎ払おうとする。

 ――危ない!! トリガーを引くか、アウティスの手を僕の手を切り裂くのが先か、僕にはわからなかった。一瞬の判断が命取りだ、ゼロコンマ数秒の戦い、僕はリスクを背負わないことにする。

 銃を下げ距離をとろうとすると、アウティスは右足で前蹴りをした、腕で胴体の骨と内臓を守るが、衝撃で壁へとふっとばされた、音を立てて激しく壁に打ち付けられるが骨にひびが入った様子はない、ただ痛かっただけだ。

 当たる瞬間僕はわずかに後ろに飛んで、一番体重が乗る瞬間のタイミングを外し威力を軽減させた、アウティスは腹の傷を治していく。
 
 なに、コイツ相手にはロストテクノロジーはフェアな能力だ、僕の弱点である身体能力を補ってくれる分、やっとアウティスと同じ戦いの条件が整った。

「ふう、困ったな。つけいる隙が無い」

 両手をブラブラさせながら、僕はおどけてみせた。

「貴様には身体能力が備わっていないとの調査結果だったが、それは間違いだったようだな……」

 じっとこちらをにらみつけるアウティス。僕はそれを鼻で笑った。

「教会に閉じこもって、人の悪口をブチブチつぶやいていれば衰えるんじゃないか?」
「私が衰えただと? 馬鹿なことを、私は一日たりとも訓練を怠ったことはない、修練こそが美徳だ」

「じゃあ体じゃなく頭のほうじゃないか?」
「私は毎日聖典を読み上げている。神の恩恵を受けることはあっても、衰えることなどあり得ない」

「じゃあ、本当は神を信じていないんじゃないか、信心が足りないんだよ」
「私の信仰を疑うだと。一度たりとも神に対して心を閉ざしたことはない、神の素晴らしさを誰よりも知っている」

「なら、神の教えはお前たち教会団の一番より上か? 聖女マレサよりもか?」
「聖帝がおられるからこそ、人々は神を信じられるのだ。聖帝がつくった……この社会が……」

 突然口ごもった。コイツ、本当はマレサ教のあり方に疑問をもっているんじゃないか? こんな理不尽な社会にのうのうと君臨する教会団に何の感情も抱かず戦い続けるなど人間には難しい。

 むしろ、信仰があつければあついほど、富と権力の悦楽に浸る教会団に矛盾に達するだろう。こいつは共和制を掲げる貴族の代表を、肥え太ったと評したが、それは上の神父たちも同じだとメリッサは語っていた。
 
 そもそもその貴族を保護しているのは教会団だ。民衆がこんなにも苦しんでいるのにこの貧富の差は何故なのかとまともな頭脳を持った人間が考えないわけがない。この社会に疑問を持っているからこそ、オーディウス神父は自由主義を許容した。
 
 神に近づこうとすればするほど教義に疑問を持たざるを得なくなる、アウティスが実はまともな顔も持っている、……そういうことか。
 
「……何故口ごもったか、何故日向さんに負けたか。お前は答えを知っているはずだ」

 僕は遠回しに畳みかける。それが奴の芯をついている分、真っ青な顔になるアウティスだった。

「──つくづく不愉快な奴だ。日向直子といい貴様といい。私を腹立たせる。……失せろ!」

 自分の頭の霧を晴らすようにアウティスから風の刃が生み出される。今切り裂かれているのは、空気じゃなくお前自身の心だなアウティス!

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