純愛異世界ファンタジー小説 終末のヴァルキュリア 第百二十七話 団らん

2021年7月27日

「パパ~ママ~」

 僕たちは商人の館に入り、迎えるナオコ。トテトテと軽快な音がする。そして銀髪のメリッサの胸の中に顔を埋める黒髪の娘。メリッサはぎっしりと強く抱きしめる。

「ママ! 会いたかった」
「すまないな、寂しい思いをさせて」

 ナオコの頭を優しくなでて浮かべる柔らかな母のほほえみ、暖かな風景、母親の温かさに包まれている小さな体。見ていると僕は心が安らいでいく、よかった、またこの光景が見られて。

「良い風景ね、良い結果が出て良かったね」

 エイミアは僕の顔をのぞき込んだ。

「ああ、そうだね」
「あーら、つれないお返事」

「女性にはわからないかもね、こういうときの男の感情は」
「何よそれ、ひっかかる言い方ね、お姉さんに教えてちょうだい」

 僕は軽くため息をついた。

「渡り鳥にも帰る森があった、という感じかな」
「あら素敵、あなたは渡り鳥なの?」

「この世界に来るまでは帰る森なんてなかったと思っていたけどね」
「ふ~ん、いいじゃんそれ、よかったね」

 そう言って満足そうに母と子を眺めているエイミア、僕の翼はこのためにあるんだ。

「パパ、約束守ってくれたんだね」
「僕が約束を破ったことあったかい?」

「ないよ、だからパパ大好き」

 ナオコは僕のほうへ笑顔を振りまいてくれる。それが戦いに勝ったことよりも嬉しかったんだ。

「ナオコ、いい子にお留守番していたかい?」
「うん、そーだよ。私、いい子でしょ?」
「そうか……、えらいぞ」

 ナオコの頭をもじゃもじゃとなでる僕。彼女は照れて恥ずかしそうにうつむいている。

「エイミアお姉ちゃんもありがとう」

 愛らしい娘さんは今度はエイミアのほうへ駆け寄って来た。

「あらー、お姉さんうれしいわ。可愛いファンがいてくれて」
「ファン?」

「ナオコちゃん私のこと好きかしら」
「うん! 大好き」

「なら、私のファンねー」

 ナオコは、不思議そうにエイミアを眺めていた、屈託もなく笑うエイミアにつられてナオコも笑った。
 
 みんな笑顔で暖める暖炉の間。赤い火がほんのりと優しく揺らめいている。

「エイミア、ここの台所借りて良いか?」

 メリッサはエイミアへと振り返る。

「話しは通しておくけどなんで」
「久しぶりに私の手料理を披露しようと思ってな、変なもん食わされて私も食に飢えている」

「わーい、ママの手料理!」

 僕も心の中でガッツポーズをする。メリッサの手料理、想像するだけでよだれが出てくる。どんな料理が出てくるのだろう、想像を膨らましていく。肉、サラダ、スープ、パスタ、デザート。

 彼女は何でも魔法のように美味しいものへと作り出していく。僕の胃袋はメリッサの料理を食べるためにあるんだ。
 
「ほー、まあ、お手並み拝見と言ったところかしら」

 エイミアはなぜか余裕ぶっているけど、アンタ料理出来ないだろ。

 待っている間、僕とエイミアとナオコで談笑していた。客室でソファーに座ってくつろいでいる。ここの商人の家の主人は本当に病気らしく、部屋に閉じこもっていた。……エイミアはホントに恐ろしい女だ。

「ナオコちゃんママのどこが好き?」

 エイミアが優しそうな目でナオコを見つめる。どうやら子ども好きというのは本当らしい。

「えっとねー、温かいところ、それでねー柔らかいところ」
「お姉ちゃんも温かいわよ、ねえ、佑月?」

「関係ない僕に話題を振らないでほしい、子どもの前で危険な冗談はよしてくれ」
「つれないなー」

 口を尖らせるエイミア。ナオコは不思議そうに僕とエイミアの間をキョロキョロしている。

「じゃあ、佑月、メリッサちゃんのどこが好き?」

 おいおい、やめてくれよ。娘の前で恥ずかしい。でもここで答えないと、後でメリッサに怒られるからな、慎重に言葉を選ぼう。

「まずは瞳、芯が強くてまっすぐなまなざしで僕を見つめてくれる。次は唇、口から放たれる言葉は、時には厳しく時には優しく、僕を正しい道へと導いてくれた。

 そして手の温かさ、指先は繊細で僕の傷ついた心を癒してくれて、さらに器用、彼女の料理や家事は僕のがさつな部分を補ってくれた。あとは、心かな。優しくて強い。メリッサのおかげでここまでこれたんだ、とても感謝している」
 
 自分で言っておきながら少し照れてしまった。それを見て嬉しそうにするエイミア。

「あらーごちそうさま。お姉さんほっこりしたわ。一言一句メリッサちゃんに伝えておくから安心しなさい」

 よかった、余計なこと言わなくて。メリッサの氷の瞳は心臓に悪いからなあ。

「さあ、できたぞ召し上がれ」

 僕たちが食事部屋に入ったら、メリッサの愛情手料理が置かれていた。

 まずは、白い豆の煮込み料理。ソーセージと鴨肉が乗せてありオーブンでじっくり煮込まれていてオニオンの良い匂いがする。

 次は牛肉の煮込み料理。肉とソースの甘い香りがして喉からよだれが出そうで食欲がそそられる。そして、肉汁がキラキラと輝いていた。

 あと、フルーツとのサラダ。ブドウと柑橘類(かんきつるい)の盛り合わせでドレッシングがかけられていた。最後はパンだが小麦のパンで元からこの館にあったものだろう。

 飲み物はブドウの生搾りのジュースだ。黒ずんだパープル色が汁の濃厚さを見せていた。

「わーおいしそー」

 ナオコが率直な感想を述べる。メリッサが嬉しそうに、

「ここは金持ちの館だから、具材がいっぱいあって何を作ろうか迷ったよ」
「むむ、やるわね。この牛肉の煮込み美味しいわ」

 エイミアはすでに席について勝手に食べていた。僕も負けてたまるか。

 白い豆の煮込み料理を口に運ぶ。鴨の肉汁のうまみと豆の甘みがからみあって煮込んでいて味わい深い。じっくりと煮込んでからオーブンで焼き上げているので味がずっしりと詰まっており、旨みと脂を吸っていて口が幸せになる。

 次に牛肉の煮込み料理だ。これは赤ワインでじっくり煮込まれていてニンジンやセロリが添えてあって実に美味い。味が濃く肉がトロトロととろけて口の中で旨みが広がっていく。

 噛めば噛むほどワインの深みが出て、庶民から貴族まで愛される実に味がはっきりとした料理だった。

 フルーツサラダはこの豊かな農村で採れたブドウと柑橘類(かんきつるい)が使われていて、甘みが合わさって素材が生きている。ドレッシングが酸味を抑えてフルーツの豊かな味を助けている。

 そしてブドウジュースを飲み僕は一言いう。

「今回も大豊作だね」
「ん? どういう意味だ」

 メリッサは不思議そうに尋ねる。

「これほど素材を生かす料理はすごいよ! とても美味しいよ、メリッサ」
「そうよ、メリッサちゃん、サイコー。私のお嫁さんにならない?」

 エイミアも同意する。初めて意見が合ったような気がする。君にはメリッサはやらんがな。

「ママは料理の魔法使いだね。おいしー!」
「そんなに褒めるな」

 メリッサは白い肌を少しピンク色に染める。その表情がいじらしくて可愛らしい。

 この温かな家族団らんの中、あらためてメリッサが帰ってきたんだと実感して、その幸福に浸っていた。

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