純愛異世界ファンタジー小説 終末のヴァルキュリア 第百四十三話 二人を結ぶ教会

「わあ、ここがコルドなんだあ」

 ナオコが手を広げて舞っている。コルドは険しい山に囲まれて、自然に埋没した雰囲気だ。僕は自分が登ってきた山の頂上へと手を伸ばす、見るとすっぽりと頂上が手の中に入ってしまった。

 遠いなあ、僕たちはここを登って来たんだよな。ここは森の中で木の香りがする。風の匂いが優しい。ふとメリッサを見ると銀色の髪の毛をたなびかせ、青い空に透き通って見えた。

「ついにたどり着いたね」

 僕は彼女に声をかける。

「ああ、私たちの運命の町に」

 彼女は優しく微笑む。今まで不安そうだった表情が消え、一気に幸せそうにする。彼女の胸の中で膨らんでいるのだろう、結婚という言葉が。

「エイミアは先に宿を取って休んでいてくれ」

 首をかしげた彼女は心配しながら、

「佑月ここの宿の場所わかるの、結構宿あるよ、山の宿場町だから」
「ああ、それじゃあ、教会に行っているから宿が決まったら、迎えに来てくれ」
「あら、私にお使いさせる気? まあ、いいでしょ、別に用とかないし、ナオコちゃんも連れて教会を見せてあげましょう」 

 気さくに承諾してくれたことで、やっぱり面倒見のいい女性だなエイミアは、と感じた。僕とメリッサは期待で胸を膨らませてこれからのことを話しながら、町の大きな教会へと目指す。

 手をつなぎ、二人で一歩一歩足並みをそろえて歩く。足跡一つずつが僕たちの足音をこの町に刻む感じで、なんだか少し不思議な気分になる。

 ギイッと古くさび付いた鉄の擦(こす)れる音をさせながら、大きな扉を開け教会に入る、僕たちは神父を探すがどこにもいない。辺りを探して、しばらくすると、「痛っ」っという声が聞こえた。

 どうやらメリッサが神父のおじいさんを踏んづけたみたいだ。

「あの……大丈夫でしょうか?」

 珍しくメリッサが敬語で恐る恐る神父を見る。白いひげを生やして群青色の神父服を着たおじいさんは、

「いやあ、この歳になると酒に飲まれることもあるんだなあ。昔は強かったんだがね」

 おいおい、昼間っから酒に酔っていたのか、大丈夫なのかな、この神父。

「それで、わざわざこの辺鄙(へんぴ)な教会に何用かな、あまり信心深いものはここに来ないものでな。退屈しておった」

 メリッサは緊張した面持ちで、

「あの、ここで結婚式を挙げたいのです」

 と告げると、神父がちらりとこちらを見る。

「訳ありじゃな」

 僕たちは押し黙った。僕たちの表情を心の奥底を覗(のぞ)くように眺めて神父は続けた。

「ここに来る連中はみな、教会団からにらまれたものばかりだ。税金逃れや、盗人、殺人者、異端者。だがな、それぞれの人生がある。もちろん私にも救えぬものもたくさんいる」

「待ってください、話を聞いてください!」

 老獪(ろうかい)そうな神父に、メリッサは即座に反応した。

「そなたは若いな、まだ名前を聞いていなかった」
「私はメリッサです。彼はその、私の婚約者で……でもこの世界の言葉がわからなくて、佑月というのですが」

「この世界?」
「いや、そのこの大陸の……」

「昔な、教会団の中で聞いたことがある。異世界からやってきて、この世界を破壊しているものがいると」
「それは……その……」

「そなたではなく男の御仁と話したい。通訳願えるかな」

 不安そうな顔をしたメリッサがこちらを向いて「神父が佑月と話したいそうだ」と言う。交渉はどうやら上手くいっていないらしい。僕たちは礼拝室の一番前の席に座らされ、老神父は重い腰を上げ立ち上がり僕の方に向く。

「異世界のものよ、そなたは神を信じるかな」

 メリッサが通訳する。直球できたな、この神父に嘘を言っても見抜かれるだろう、なら。

「僕は神を信じていません」
「佑月!」

 メリッサが慌てて声を上げたので、僕は落ち着いて「頼む直訳してくれ」と言う。彼女が通訳すると老神父は何か凄みを増してきた眼差しをする。

「なら、何故教会で式を挙げようとする。別に神を信じていなければ、神の前での誓いなど意味があるまい。勝手に夫婦と名乗るが良いのではないかな」

 メリッサは気色ばんで僕に向かって通訳した。神父からすれば当然の言い分だ、僕は言葉をつづけた。

「それは教会というものは世界とつながっているからです。僕の世界では、いろんな宗教があり、相争っています。それぞれの考えがあり、それぞれの文化があり、衝突しています。でも、必ず冠婚葬祭(かんこんそうさい)は宗教が関わってきます。

 それは何故かというと、宗教は人間と世界をつなげる交渉者であるからです。宗教はこの世界の事柄をありのままを人間に伝え、そしてそれを少しでも救う役目があります。
 
 文化、歴史、過去の人物。これは人間にとってとても大切なものです。教会で式を挙げることはその世界に自分たちの誓いを示すことであり、それを祝い祝われることはそこの社会、文化の中に溶け込む意味を持ちます。
 
 だから式を挙げたいのです。僕たちの結婚がこの世界で認められるように」

 僕は持論を広げた。この世界で通じる理屈だとは思わないけど、言わなくて後悔するより、言って後悔する方がいい。

 複雑な表情をしたメリッサは丁寧に通訳しているのだろう。少し時間がかかっていった、老神父は目を見開いた。

「交渉者か、我らは交渉者か……長い年月、信仰に身を捧げてきたが、初めて知ったわ。そうか……神は……」

 不思議ながら嫌悪感のしない複雑な表情をして、考えを巡らせているのだろうか、老神父は黙っている。そして無言の時間が続く。15分ほどたったころだ、神父は口を開いた。

「わかった。やっても良い」

 神父の言葉にメリッサが急に目を見開き、歓喜の顔に変わる。

「ただし……条件がある」
「何ですか?」

 メリッサと老神父のあいだで会話が広げられているから、僕にはよくわからないが僕の言葉が良い方向に行っているらしい、気持ちが伝わったようだ。

「結婚式の計画は、そなたらたちの世界の文化のやり方でやるべきだ。式の作法、衣装はそなたら自身で用意しなさい。わたしはただ交渉者として、そなたらの世界と我らの世界との媒介者(ばいかいしゃ)になろう」

 メリッサが自分の手と手を合わせた。

「神父ありがとうございます!」
「僕にはよくわからない。どうなっているんだ」

 戸惑いを隠せない僕にメリッサが抱きつき、そして、

「結婚式を挙げても良いって! そのかわり自分たちの文化の作法で挙げなさいって!」

 といった言葉に僕は安堵(あんど)した、良かった、僕たちの想いが伝わったんだな。その様子を見て老神父が優しく微笑んだ。
 
 ご機嫌のメリッサは神父とよく話し合い、日取りや式の内容を膨らませているようだった。こういうことは女の子に任せた方が良いな、下手な横やり入れて話をこじらせるわけにはいかない。結婚式は女性にとって一生に何度かしかない最高の晴れ舞台だ。

 僕は無粋な真似はしたくない、ただ彼女の嬉しそうな横顔をぼんやり眺めていた。神父との話が弾んでいるようで、二時間ぐらいたった感じがする。そしてしばらくすると、エイミアとナオコが迎えにやってきた。

「やっほーメリッサちゃん。上手くいった?」
「ママ、パパ! どうだった?」

 エイミアの姿を見ると老神父はエイミアをじろじろ眺めはじめた。

「ほう、エイミアではないか久しぶりだな。相変わらずええ乳しておるの」
「うるさい! エロ神父!」

 何故かエイミアは老神父と言い争っている。どうやら二人は顔見知りらしく、因縁がありそうだ。

 宿に着くと僕たちは結婚式計画を皆に説明した。

「みんな、式に来てくれるだろうか?」

「はい、もちろんです! 結婚式は女性の憧れですからね、私も一度試しに式の感じを味わってみたかったです」

 レイラは嬉しそうに答え他の皆もそれに同意する。

「パパ、ママ! おめでとう!」
「ナオコ、まだ始まってないぞ」
「だってママすっごい嬉しそうなんだもん、私もおんなじ気持ちになりたい」

 普通、父親と母親の結婚式って直で見られる子どもはまれだからね。ナオコは嬉しそうに「ケッコン、ケッコン!」と息をまきながら興奮していた。

 そしてみんなでエイミアとメリッサは式の内容を膨らませ始めた。

「へえ、ブーケっていうの? それとると男運上がるの?」
「まあ、そうだな」
「ええそうなんですか! 私欲しいです!」

 とレイラが嬉しそうに反応し、シェリーは「はあ~、結婚ねえ、私に縁があるのかねえ」とため息一つ。ほかのヴァルキュリアも含めて女子同士会話が弾んでいる。

 このパーティーは女子が多いから、もう宴会とおしゃべりだらけで、僕とブライアンは苦笑いをうかべるだけだった。

 それから式の準備が始まった、メリッサはテキパキと衣装を作り、僕の真っ白なタキシードも作ってくれた。うわあ、恥ずかしいなこれ着るの、でもなあメリッサに恥をかかせるわけにはいかないもんな、我慢するか。せっかく作ってくれたし、一生に一回の経験だもんな。

 女子たちは昼間集まってドレスをあれこれ言いながらみんなで作っている。男子禁制らしく、僕はどんなドレスか知らない、楽しみだなあ、メリッサのドレス姿。

 ……こうして慌ただしい日々が続く中、ついに結婚式の日がやってきた。

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