純愛異世界ファンタジー小説 終末のヴァルキュリア 第百四十四話 ハッピーウェディング

2021年8月15日

 結婚式の待合室、僕は白いタキシードを着て緊張していた。近くの修道院から修道女が来て、式の準備を手伝ってくれている。今は僕の服装をチェックしてくれていた。しかし、僕には言葉が通じない、何だか優しそうだが言葉が通じないため孤独感を感じて緊張をした。

 時間が長い、まだ待たせる気だろうか。長い、長い、時間ってこんなにも長いのか、疲れる。

 ふと考えてみれば、僕とメリッサの日々は戦いばかりだった。でも吊り橋効果というわけではない。僕はメリッサに怒られたり励まされたり優しくされたり、そのお陰でなんとか勝ってこられた。実際のところ、メリッサに褒められるため、頑張ったところもある。

 ああ、何回考えてもやっぱり僕はメリッサのことが好きなんだなあ。彼女のことを考えると胸がドキドキする。なんかいいなあ、こういう時間も。開き直ってみるとメリッサのことばかりが浮かんでくる。

 灰色だった僕の世界に、メリッサという万華鏡を通して色とりどりに輝いていった。こんなにも美しい世界があるんだなあと僕は幸せを知った。メリッサも同じ気持ちでいてくれているだろうか、早く会いたい。

 修道女が入ってきて僕を招いてくれていた。──さあ、人生の晴れ舞台。メリッサには恥をかかせられないぞ。

 荘厳な音楽が流れてくる。教会の正面の扉からバージンロードを一歩ずつ歩き礼拝所中央に行き老神父の前に立つ。仲間のみんなは参列席で席を立っており、おごそかな雰囲気だ。

 僕は後ろを向く。修道女に連れられて、純白のドレスを着た銀色の乙女がゆっくり、ゆっくり近づいてくる。ベールに阻(はば)まれて表情は見えない。観客から声が上がった。町の人まで興味本位で来てくれたようだ。
 
 それにしても彼女は美しい。はかなくて繊細で抱きしめてしまえば、壊れそうなガラスの人形。また、肌が白く透き通って見え、教会に差し込む光をまばゆく跳ね返していく。修道女から銀色の乙女の手を取り僕のとなりへと導く。

 そして賛歌が流れた、美しく響き渡る声たち。パイプオルガンが低音をささえて、神聖で不思議な空間、幻想的な心地で現実から解き放たれ、天国へと階段を上っていく感じがする。

 讃歌が終わった後、僕たち二人は一文を読む。

「愛は寛容であり、愛は親切です。また愛は他人をねたみません。愛は自慢せず、高慢になりません。礼儀に反することをせず、自分の利益を求めず、怒らず、他人のしたことを悪と思わず、不正を喜ばずに真理を喜びます。

 すべてを我慢し、すべてを信じ、すべてを期待し、すべてを耐え忍びます。愛は永遠なる力です。愛は決して絶えることがありません」

 僕たちの言葉が終わると静かに、そして老神父から式辞が読まれる。

「今、お二人は結婚の日を迎え今後の日々を思って胸を弾ませていらっしゃると思います。しかし、夫婦というものは、子どもが思い描くような夢のような日々ではありません。苦難の日々の連続です。何度もすれ違い、また喧嘩(けんか)をし、仲違いをすることも当然あります。

 でもそんなときは今日の日を思い出しなさい。皆の前で許しを請い、神に誓ってあなた方は夫婦となるのです。癇癪(かんしゃく)は控えなさい、短慮(たんりょ)はいけません。お互い心を寄せ合い夫婦となるのですから、お互いの気持ちを受け入れなさい。

 そして互いに感謝することが大切です。”ええ、ありがとう”その単純な言葉の繰り返しが夫婦の秘訣です。ときには素直な気持ちで謝りなさい。お互い寄り添ってこその夫婦です。

 一人では夫婦になれません。あなた方には子どもがいます。親の姿を演じなくてはなりません。それは簡単には上手くできないでしょう。何度も何度も失敗をし、そしてお互いを許してあげなさい。そうすれば幸せが長く続くでしょう。

 佑月さん、メリッサさん二人ともお幸せに。この愛が永遠であることを私は常に神に祈り続けます」

 仲介人であるエイミアが僕に通訳をした。僕は深々と頷く。

「佑月さん。あなたはメリッサさんと結婚し、妻としようとしています。

 あなたは、夫としての役割を果たし、常に妻を愛し、敬い、慰め、助けて、変わることなく、その健やかなるときも、病めるときも、富めるときも、貧しきときも、死が二人を分かつときまで、命の日の続く限り、あなたの妻に対して、節操を守ることを約束しますか?」

 老神父の言葉をエイミアが訳す。これまでメリッサと歩んできた道を思い返す、苦難と困難の日々だった。でも、絶対僕は彼女を愛し続けることができる──だから……。

「はい、誓います」

「メリッサさん。あなたは佑月さんと結婚し、夫としようとしています。

 あなたは、妻としての役割を果たし、常に夫を愛し、敬い、慰め、助けて変わることなく、その健やかなるときも、病めるときも、富めるときも、貧しきときも、死が二人を分かつときまで、命の日の続く限り、あなたの夫に対して、貞節を守ることを約束しますか?」

 メリッサは恥ずかしそうに一言一言、心を込めて言う。

「はい……誓います」

 エイミアが老神父に訳す。彼女が「それでは、二人の指輪の交換を」と言う。修道女からアデルが作った結婚指輪を渡される。それをメリッサの左手の薬指にはめる。

 メリッサが修道女から結婚指輪を渡され僕の左手の薬指にはめる。僕らは客席に見せてから二人で手を合わせて、その上に老神父が手をのせ祈りを捧げる。

 エイミアは静かな声で「それでは二人には誓いのキスを行っていただきます」と言う。

 僕はメリッサのベールを上げ、表情を見る。頬を染めた美しい女性が恥ずかしそうに見つめていた。銀色の髪の毛が輝き、唇が薄桃色に光る。僕はゆっくりと彼女のあごに手を当て少しかがみキスをする。初めてのような初々しいキス。

 みんなの前でキスをする気恥ずかしさと、神聖な気分で胸がじわっと熱くなる。そっと唇を離す。その時の色っぽく、幸せそうなメリッサの表情を僕は生涯忘れない。

 僕たち二人は祭壇のキャンドルをそれぞれ持ち中央の大きなキャンドルに火をともしていく。キャンドルを置いて中央に戻り二人で手を握る。老神父はおごそかな声で皆に伝えた。

「これで二人は夫婦です。二人に幸あらんことを!」

 拍手をしながら参列者は退場した。僕たちは固く握った手を離さないように一歩一歩、礼拝堂を出た。

「メリッサちゃんおめでとう!」

 皆から花のシャワーを浴びさせられる。

「メリッサさんおめでとう」

 ユリアが積極的に花を投げている。サラは感動して涙を流している。アデルも
「はい、おめでとう」と言いながら僕に花をぶつけてくる。いや、そういうゲームじゃないから、これ。

「おめでとうございま~す」

 ダイアナは上品そうに体を大きく使って花を投げてくれている。ミーナなんか泣きながら「おめでと、ございまーす」と花を投げてくる。

「パパ! ママ! おめでとう!」

 ナオコが花のシャワーの中僕たちに抱きついてきた。

「佑月さんおめでとうございます!」

 レイラも感動した様子で泣きながら花を投げてきた。

「佑月さん、メリッサさんお幸せに!」

 ブライアンは大きな声で僕たちを祝福してくれる。

「絶対幸せになれよ!」

 シェリーは笑いながら花を投げてくれた。とても温かい言葉が胸にしみてくる。こんな高揚感、幸福感はあるんだろうか。とても言葉じゃ伝えきれない感情がこみ上げる。ふとメリッサを見ると泣いていた。僕は彼女の肩を抱く。

「メリッサ……」
「だって……、だって、みんながこんなにも祝ってくれるなんて……私嬉しい……!」

 すこし鼻をすすったメリッサが、

「みんな、みんな、ありがとう……ございます……!」

 と大きな声を上げる。僕も、

「ありがとう!」
 と叫んだ。そこで突然のサプライズが起きた。

「ご主人様! おめでとうございます!」

 その言葉と花を投げてきた出所を見て僕は驚かざるを得なかった。まさか……!

「ララァ⁉ 何故ここにいる!」

 彼女は時空のはざまに飛んで戻って来られないようになったはずだ、何故ここにいる⁉ 皆がどうしたかと騒めき始めた。

「お久しぶりです、ご主人様、どうやらわたくしがここにいることが信じられないご様子ですね。佑月さんの素晴らしい策略により、確かに時空のはざまに閉じ込められました。

 しかし、わたくしの事を創造神は見捨てておられませんでした、わたくしは創造神と契約を果たし、神の代行者となることで、時空を超える力を目覚めさせていただきました」

 そして彼女は右手の手の甲に描かれた独特の文様を見せる。それを見てエイミアが驚いた。

「まさか、時空(とき)の守り人の紋章⁉」
「ええ、エイミアさんならご存じでしょうね、神様からあなたのことはうかがっております。ずいぶんとお困りのようでしたよ」

 エイミアが彼女をにらみつけ、ララァは優し気に微笑む。取りあえずなぜここに来たのか探らないと。

「ララァ、君は何故ここにいる、君は僕と敵対しているはずだ」

「わたくしが佑月さんと敵対している⁉ 何を言ってるのですか、貴方は私の大切なご主人様ではないですか! ああ、しばらく音沙汰がなかったことを怒っていらっしゃるのですね! ええ、私は悪い女ですとも、ぶって! わたくしをぶって! ぞくぞくしてきました!」

 とりあえず今のところは敵意がなさそうだ。彼女が何を考えているのか気になるが、今は結婚式だ、メリッサも不安そうな顔をしている、式のフィナーレを終わらそう。ララァの事はその後だ。

 フラワーシャワーが終わると、修道女たちがブーケをメリッサの手に渡す。女性陣の目がきらりと光る。メリッサが息をつき「せーの」と言ってブーケを投げたところまでが良かった。

 その後は戦争だった。女性とはこんなにも恐ろしいものだと思い知った。今まで団結して仲良く祝福してくれた女性陣が、殴り合い蹴り合いでブーケの争奪戦が繰り広げられた。

「男運はもらった!」
 エイミアが手を伸ばすがシェリーが彼女を突き飛ばし、

「結婚運が上がるなら私がもらう!」

 とやったが最後、女性陣全体が暴走し始めた。

「違う私よ!」
「私に決まっているでしょ! このメスブタ!」
「うるっさい! 私がもらう」

「私でしょ!」
「違う私のものよ!」

 醜い……。いや、そういうゲームじゃないから、これ。女同士のラグナロクが繰り広げられて ブーケはボロボロになりながらナオコの手に渡った。ナオコが「なにこれ? お花?」と不思議な顔をして手の中にあるブーケを見つめる。

 流石に女性陣も子どもに手を出すのは、大人げないと思ったのか終戦したようだった。

 ボロボロになったエイミアがフラフラしながらみんなに声をかける。

「それじゃあみんな祝賀会よ、食事を広場に用意してあるから来て!」

 そこには女性陣手作りの料理が並んでいた。街の人々も交じって僕たち新郎新婦を祝ってくれる。ユリアは歌いながら踊っている。僕たち二人に村人からかごの中に入った鳩たちを渡される。白く元気な鳩たち。僕とメリッサは「せーの」といってかごの扉を開ける。

 白い翼が空を飛んでいく、青く染まった空。空気をなぎ払い天へと昇っていく。僕たちには翼がある。そして仲間が、娘が、妻が、そうメリッサがいる。何も怖いものなんてない。僕たちの明るい未来を指し示したかのように白い鳩は天空の、空の彼方へと飛んでいった。

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