純愛異世界ファンタジー小説 終末のヴァルキュリア 第百四十七話 神のしもべ

2021年8月19日

「きゃっ! ご主人様―!」

 そう言っていきなり誰かが僕を後ろから抱き着いてきた、たぶん女性だろう胸の感触がした。振り向くとやっぱりララァだった。

「ララァ、いったいなんなんだ⁉」

 僕がそう強い口調で言うと、萎(しお)れた振りをして頬に手を当てるララァだった。

「まあ、ご主人様まだお怒りが冷めないご様子ですね、安心してください、今まで通り私は貴方の奴隷、貴方は私のご主人様、それは結婚しようと変わりませんわ、さあいつも通り私の服をびりびりに破いてくださいまし!」

「……おい、佑月どういうことだ」

 隣にいたメリッサが大層なお怒りのご様子でごもっともだけど、これは別に僕の責任ではないので説明が難しい。ララァの一件も詳しくはメリッサに話してない。誤解されるだけなので掘り下げなかった。ナオコはというとなぜかニコニコしていた。

「いや、これはだね、彼女はすごく妄想癖があって、前戦った時に、何故だか酷く好かれてしまったんだ」

「まあもう、妄想だなんてひどいですわ、貴方の固いもので私の大事な部分に出された瞬間、この世の快楽と悦楽を味あわせていただいたというに、あら、お忘れになったのね!」

「妄想にしてはやたら具体的だな佑月?」

「違う! 違う! 誤解だ、彼女は無理やりな言葉の表現をしているだけで僕は無罪だ、断じて浮気なんかしていない!」

「あら、浮気だなんて大層な、私はただの性奴隷、貴方はりっぱなご主人様、ご主人様の性欲のはけ口として遠慮なく私を使ってくださいましね」

「……ナオコ、行こう」
「うん、そうだね!」

「違う、違う、彼女は出まかせを言ってるだけだ、信じてくれ!」

 僕の言葉の制止を振り切ってそのままメリッサは立ち去ってしまった。どうするんだ、この状況……。

「まあまあ、メリッサ様も短慮な方ですね、ちゃんと詳しく聞かれれば実際の間柄を説明しましたのに」
「なら、何故それを始めにしない……!」

 ララァの言葉に怒りを隠せるはずもない僕だった。

「それはそれ、これはこれ、いつ間にかわたくしのいないときに、佑月様はご結婚なされて、淋しいですわ、リリィもいなくなっちゃったし……」

「……そういえば君は僕を恨んでいないのか? 君の恋人のリリィを殺した相手だぞ」

 僕の言葉にララァはわかってないなあといった様子でため息をついた。

「もちろんわたくしは、リリィを愛しておりました。でもそれは女心、わたくしは自分がもう少し間に合っていれば、彼女が短慮を起こして虐殺などさせないよう、止めることができたと悔やむことはあっても、貴方をお恨みする理由はございませんわ。

 そのような何もかも他人のせいにするような浅はかな女ではありません。わたくしたちは命の取り合いをしていたのです。当然あなたは家族を守るためにリリィを倒すでしょうし、わたくしが貴方の立場でもそうしておりましたわ」

「なら、君は僕と命の取り合いをしないのか?」

「あら、説明不足でしたね。わたくしはもうエインヘリャルではありません。ヴァルキュリアもいませんし、私は契約の民になる権利を破棄しております。ただの神のしもべとして神族の体をいただきました。12人のうちに入ることは今後一切ございませんので、それは安心してくださいましね」

「創造神の目的は何だい、君を使って何を企んでいる?」
「それは秘密ですわ」

 そう言って嫋(たお)やかに口元に人差し指を当ててほほ笑んだ。一癖も二癖もある相手だ。今後ラグナロクでちょっかいだす気なんだろう、警戒しないとな。

「で、僕になんか用があるのかい?」
「まあ! 切ないですわ! 貴女とわたくしの間柄じゃないですか、ご主人様の結婚式に参加するのは当然です! 何か不自然がありまして?」

「……いや、別にそんな間柄じゃ……」
「まあ、ひどい! そうやってわたくしを嬲(なぶ)るのですね! ああ、ぶって、わたくしをぶって!」

 めんどくさいからこのことを彼女に突っ込まないようにしよう。もういい、疲れた。それよりも何か目的がほかにあるはずだ。少し探るか。

「で、君はどうやって僕を捜しあてたんだい? 君には泊まっているところを教えていないし、そもそも君は祝宴会場で酔っ払って、町の大の男をジャイアントスイングして遊んでいたはずだ」

「ああ、あのまま放置してわたくしをおいていくなんて、なんて残酷なご主人様でしょう! せっかく場を盛り上げようと頑張っていたのに、おかげでずいぶん探すのに手間暇がかかりましたわ。ああついでに言いますが、町でレイラさんとダイアナさんにお会いして、泊まっているところを聞き出しました。

 その途中で貴方様ご一行を見つけたので、ごあいさつしたのです」

 くっ……、レイラも余計なことを、エイミア並みにめんどくさい女なのになこの娘は。

「ところでエイミアさんは館にいらっしゃるのですか?」

 ん? どういう意味だ、何故そこでエイミアの名前が出てくる。

「ああそうだが、君はエイミアに何か用事かい?」
「口が滑りましたね、ご主人様相手ではすぐに見抜かれてしまいますから、あーあ、失敗、失敗です」

 そう言って頬に右手を当てて可愛らしく首をかしげるララァだった。

「良かったら僕が館へ案内するよ、メリッサも気晴らししたら館に帰ってくるだろうし」
「まあ、ご主人様お優しい! その優しさでわたくしは天国へとイってしまいそうですわ!」

 とりあえずこの娘が何のつもりで関わってくるか気になる、目を離すと何をしでかすかわからない怖さがあるから、目を光らせておこう。

 こうして、僕とララァは館の客室へと向かった、どうやら、エイミアとシェリーで戦いの話で盛り上がっていた様子で、割と二人は気が合うらしい、意外だ。そして僕たちが中に入るとみんな驚いた。

「あ? 佑月、そいつ誰?」

 シェリーの質問に僕は端的に説明した。

「彼女はララァといって、昔は教会団のエインヘリャルをしていて、僕と戦った間柄だ。どうやら彼女は創造神と契約してエインヘリャルをやめて神族になったらしい」

「まあ、シンプルな説明ですわ! わたくしが説明し始めると、日が傾くまでお話ししてしまう難しい事情なのに、流石殿方、ああ……愛おしい……」

 いや、別にララァ君以外ならさらっといえるだろう。エイミアは不機嫌そうに立ち上がった。

「創造神の犬が何の用よ」

「まあ、エイミア様、わたくしが神族の仲間入りをした以上、先輩のしかも神階第一階層の貴女にご挨拶に伺うのは当然ではありませんか! ああ、貴女は私など憶えていないのですね、私が教会団で貴方をお見かけしたときは、天に輝く太陽のようでした、わたくしなど道端に生えてふまれるための雑草、ええ、それも仕方ありませんとも!」

「……どうやらあの創造神がわざわざ、一介のエインヘリャル如きを神族にあげてまでしもべにした理由がわかった気がするわ……」

 エイミアはララァをにらみつけた、やはりエイミアは創造神に対して何か含むところがありそうだ。

「まあ、わたくしなど、本来道端に捨ててあるごみ同然なのに、創造神様の慈悲は偉大です、ひとしくその御心で生命そのものに権利を与えてくださるのですから」

「何が創造神の慈悲が偉大よ、あいつが今まで、本当に誰かを救ったことがあるの? 作ったはいいものの放置してその結果がラグナロク、人類の再編成、どこに優しさのかけらがあると言うのよ、これ。ここまで放っておいた責任を人類そのものに押し付けて滅ぼそうとしているじゃない」

「神といえども、その力は無限ではありません、ええそうですとも、神階第一階層のエイミア様ですらメリッサ様に追い込まれて命からがら生き延びるくらいですから」

「何? アンタ、私を煽ってるの?」

「まさか、ご尊敬しておりますわ、貴女には本来関係がないラグナロクに参加するなんてすばらしいですわ、貴女様ならわざわざ純粋な神にならなくとも神の眷属(けんぞく)でありながらその力は、何不自由なく無限に等しいほどの力と名誉を持っていますのに」

「アンタそれ本気で言ってんの? 創造神はわざわざ私をラグナロクに参加させないようルールを決めているんじゃない。ヴァルキュリアがエインヘリャルを直接的に攻撃できないよう仕組んだのは私の力を制限させるつもりだからでしょう、違うの?」

「ああ、エイミア様ならこの世界をエインヘリャルごと因果律を超えて消し去ることができるのに、敢えてわざわざほかのヴァルキュリアと同じように戦う姿勢は素晴らしいですわ」

「馬鹿言ってんじゃないの、世界が滅んだらアウティスも死んでしまうから意味ないでしょう。私自身は何とか生き延びることはできてもパートナーが死んだらそれでゲーム終了。明らかに私を狙い撃ちにした仕組みでしょうに」

「そうですわね、でも貴女ほどなら十分に生きてきたし今更死のうが生きようがどうでもいいじゃありませんの、何故ラグナロクに参戦を?」

「私は……!」

 そのときはっと気づいたように口を閉ざしたエイミアだった。そして一言。

「危うく、創造神の手口に引っかかりそうだったわ、アンタやり手ね。流石はあいつに見込まれたことがあるわ」

「まあ、わたくしなどたいしたことありませんのにどういたしましたの?」

 ララァのさも天然を装っている様子に、エイミアは鼻を鳴らす、そうだエイミアは戦う理由がないんだ。メリッサから聞いた話によれば、簡単にラグナロクを勝利するよう力を制限してまで勝つこともできるし、そもそも創造神に等しいほどの能力を持っているのなら、わざわざ参加する必要のない戦いだ。

 何故アウティスの小間使いまでして戦う必要がある、何故僕たちについてくる、彼女の目的は一体なんだ? 僕は気になったが、どうやらエイミアは口を割る気がないらしい。なら、今の状態を壊すことがないよう問い詰めることは避けよう。

 そう思った先にメリッサとナオコが館に帰ってきた。

「ああみんな帰ったぞー、ってまだいる……!」

 そう言ってメリッサはララァをにらみつけた。誤解を解かせるようララァと話をさせてみよう。

「ララァ、きちんと紹介してなかったね、僕の愛する妻であるメリッサだよ」

「まあ! 紹介してくださるの! わたくしララァと申します、趣味は妄想と時を超えることです、ご主人様と同様にわたくしを可愛がってくださいましね」

「は? ああ……メリッサだよろしく」

「まあ、何と雄々しきその姿、私のご主人様の妻にふさわしい美しさ、ああ、かまいません、わたくしをご主人様同様にぶって! わたくしをぶって! きっとわたくしその鋭い目つきのもと、ごみのように見下されながら、ひどいことをされるのですね! ああ、何をされるのかしら、わたくし、期待で胸が膨らみますわ!」

「……何だこいつ……?」

「何もしないのですか! 放置プレイなのですね! いいですわ、その碧い瞳で見下してくださいまし! ああ、ドキドキしてきました!」

 メリッサはだめだこいつと右手で頭を抱えた。どうやら誤解も溶けたようなので一安心だ。取りあえずねっとりとしたララァのストーカーっぷりは今度はメリッサがマイブームらしく、激しく粘着した。サドとマゾで相性がいいと思ったが、どうやらララァが規格外らしい。メリッサが困る姿を観て少し可愛く思い、心が安らいだ。

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