純愛異世界ファンタジー小説 終末のヴァルキュリア 第百五十二話 無自覚な不幸

「──以上だ、これより、より高度な戦術訓練を行う、皆わかったな!」

 メリッサの新たに追加された戦術の説明を受けた後、僕たちはフォーメーションにつく、皆慣れてきたせいか、顔が引き締まって見える、エイミアですらそうだ。

「サラ! ヤカバの檻をどんどん開けてくれ!」
「……わかった」

 サラはヤカバが詰め込まれた檻を開け放ち、それらが僕たちにすごい勢いでやってくる、そしてメリッサは掛け声をかけた。

「構え……放て!」

 メリッサの号令のもと、僕たちは一斉射撃を行う、弾はヤカバの足へと放たれる。これは僕の提案で、一斉に襲ってくる敵の足止めをし、勢いを失わせる作戦だ。

 通常銃撃は胴体を狙うが、こうやって敵が何層にもなって襲い掛かってくる場合、胴体を狙っただけでは戦場でドーパミンが駆け巡っている頭の中、感覚がマヒしてそのまま突っ込んでくる可能性がある。

 その場合相手の勢いを止められず、一斉にこちらに向かわれると銃は不利になる。昔は銃剣突撃で死に物狂いに来られた場合、重機関銃があっても勢いを止められず被害が出た戦いもあった。

 そこで僕は足を狙うことにした、感覚が鈍ろうとも、足を撃たれれば自然まともに走れなくなるし、最前線の足に当たれば、足が止まり、前列が動けないと、後列も動けず、そのまま勢いがそがれる。もちろん狙うわけじゃない、当たればラッキーでばらまくだけ、少しでも突撃の勢いを減らす目的の一斉射撃だ。

 射撃の轟音に怯(おび)え、足元に弾がきてヤカバの大軍も戸惑いつつもこちらに近づいてくる、よし相手の最前線ラインがばらついた、これで狙いやすくなったな。僕たちは制圧射撃を続け弾をどんどんばらまき、勢いをそぐ。

「センターラインを越えた、シェリー、囮(センターフォワード)として近づいてくるヤカバを捕まえて追い払え、私たちユリア、佑月、私は狙撃に切り替えろ! いいか、ユリア、青の絵の具がついたヤカバだけを狙うんだ。

 佑月は狙撃手(シャドウストライカー)として赤の絵の具がついたヤカバを狙え、いいな!」

「ああ!」
「了解しました!」

 メリッサの命令に僕とユリアは返事をする。あらかじめ僕たちはヤカバの額(ひたい)に絵の具を付けた、青はヴァルキュリア役、赤はエインヘリャル役だ。僕は狙撃手(シャドウストライカー)として近づいてくるエインヘリャルを確実に倒さなければならない、もっとも重要な役目だ。

「レイラ、ブライアン、アデルはそのまま弾幕を張れ! ミーナ、ダイアナは青だけを足止めしろ、くれぐれも誤射に気を付けろ!」

「はい!」
「よっし!」
「おいっさー」
「わかりました!」

 5バックも機能している。ここまでは順調、しかし、メリッサの右サイドの方に少しヤカバの軍勢が偏っている、メリッサが朱色の鎧を着ているせいかな。

「メリッサ! 右サイドを変わろう!」
「わかった! ユリア、私とともに青のヤカバを狙え!」
「はい!」

 僕とメリッサは素早くポジションチェンジをして、右サイドに張る、そして間近に迫る赤のヤカバをどんどん撃って、追い払った。

「中盤が突破された! エイミア中央を頼むぞ、佑月、突破してくるヤカバを最優先にしろ、サイドをとくに撃て、ユリアも同様だ!」

 その掛け声のもと僕は回転(ターン)をし、サイドに散らばって突破した赤のヤカバを撃つ、ユリアとメリッサも同様だ。また同様に激しく回転(ターン)をして前からやってくるヤカバを追い払う。

「はーい、よしよしいい子ね、可愛いから、大人しくしようね」

 エイミアはフットワークを生かしどんどんとヤカバを捕まえていく。また、メリッサは指示を送る。

「レイラ! 近づいてくるヤカバを狙い撃て、発想を切り替えろ、当てれば何でもいい、ブライアン、アデルはそのまま近づいてくるヤカバを足止めしろ!」
「はい!」
「ああ!」

 矛(ストライカー)の僕たちとレイラが突破したヤカバを減らし、あっという間に、ヤカバが散っていく、一度だけブライアンが氷の壁を発動させたが、前よりも効率的にヤカバをすべて追い払った。

「よし! 訓練終了! よくやったぞ、うちは進歩している! 休憩した後、午後は射撃訓練に入れ、以上! 解散」
「おおー!」

 みんないい汗をかいてこのチームが上手くいっていると実感する。だいぶみんなも成長している、射撃もそうだ。これなら優勝もいけそうだな。

 僕たちはメリッサの言う通り休憩の後、射撃訓練に移った、みんなよく訓練に励んでいるなとざっと見ていたら、アデルがいない、そういえばレイラもいないしどこ行ったんだ? 少し探してみるか。

「みんなちょっと訓練を続けてくれ、少し離れる」
「了解ですー」

 ユリアがすぐさま反応したのを感じて僕は二人を捜していた、たく世話が焼けるな、もう。
僕は森深くまで入り込んでいく、人の気配を感じたので、そっと生い茂った葉っぱに隙間から顔を確認すると、アデルとレイラだったので声をかける。

「おーい、アデル、レイラいったい何をやっている……⁉」
「きゃああああぁぁ──!」

 レイラが叫び出した。それもそのはず二人は抱き合っていた。僕は思わず「すまない!」と言ってその場を離れた。心の準備ができていなかったので、慌てて逃げだす形になった。

 その後何事もなかったかのよう振舞って、射撃訓練の指導を始めていると、レイラとアデルが合流してきて、気まずい雰囲気が流れた。

 レイラは静かに僕に近づきこう言った。

「……少し、ゆっくり話をさせていただけるよう、お時間をいただけないでしょうか?」

 僕は「ああ……」と頷き彼女とともに森に入っていく、アデルは「ふんっ」と鼻を鳴らしていた。

 僕とレイラは小さな池のほとりで二人して座った。彼女は言いにくいのか、黙っている、話のきっかけを待っているようだった、僕は世間話でもしようかと思ったが、レイラからすれば、わざと話題をそらそうとしていると思うかもしれない、だからあえて単刀直入に話を切り出した。

「……君とアデルはやっぱり付き合っていたんだね?」
「違います! 彼とは付き合ってなんかいません! 誤解です」

「誤解も何も……」
「だから勘違いしないでください! 私と彼はそういう関係なだけで、付き合っていないです!」

 彼女が冗談で言ってるのではない、本気でそのつもりのようだ、それは栗色の瞳が物語っていた。ということは……。

「……じゃあ君とアデルは肉体的な関係で精神的にはつながっていない、そう君は言いたいのかい……?」

 彼女は目を見開き、言葉にされたことでショックを受けたようで、目をそらす、少し俯(うつむ)いた後、ゆっくりと答えた。

「……はい……そうなります……」

 複雑な人間模様のようなので、踏み込んでいいか僕は躊躇(ためら)った、だが今度は彼女の方から訴えかけるように静かに語り始めた。

「私、生前、奴隷だったんです。その……殿方がよく想像されるようなこともやらされました……」

 えっ……⁉ 意外な発言に僕は言葉を詰まらす。つまり性奴隷だったっていうことなのか……?

「……私、戦争奴隷なんです、部族同士の争いで3歳のころ両親は私を捨てて逃げました、その後、捕えられて、売られて……で、でして、ほ、ほら、私ちょっと自慢なんですが、割と見れる顔じゃないですか、だからその……奴隷商人に高く売られたんですよ。

 け、けっこうな値段がついたんですよ…! 庶民の家が買えるぐらいで……す、すごいですよね、私、はは……、で、その……そのご主人様が、あの……とても変わった方で、子どもが大好きだったんです。

 困った意味で……」

 ──つまりペドフィリアだった主人に買われたのか……、想像以上の惨状だった。僕は右手で頭を抑えた。

「最初はご主人様は紳士でしたよ……私はいいところに買われたって喜んだくらいです。でも先輩の同部屋の子どもの奴隷が、夜な夜なご主人様に呼ばれるのを横で見て、……何してるんだろうなって思ったんですよ……、でも帰ってくると泣きながら、黙っちゃって、何かあったのかなってただそんな感じで思ってたんですよ。

 そしたらある日、私も夜、呼び出しが来たんです……私、ご主人様が好きでしたから喜んで部屋の中に入りました、そうしたらご主人様の様子が変で、た、たぶん何か私が悪いことがしたんだろうなって、すぐさま謝ったんです……そうしたらご主人様が豹変してその……私の服を破り始めたんです。

 ……その時のご主人様がとても怖かったんです、だから泣きながらごめんなさい、ごめんなさいってあやまったんですよ、でも許してくれなくて、……ああ、私は馬鹿だから抵抗しちゃったんですよ……するとご主人様はものすごく怒り始めて……殴られながらその……あの……その……それが、……私の初体験でした……!」

 彼女は涙ながら語ったのでレイラの肩を支えた。何も言えない、僕もそこそこ不幸だと思ったが彼女は度が過ぎている、僕は優しく慰めた。

「怖かったね……」
「は、はい……すみません……暗い話を始めちゃって、その後、私の順番が来たら、今度は怖いことにならないよう抵抗しなかったんですよ……きちんとご主人様の言うことを聞いていろんなこと、やらされたり、されたりしました。

 言葉じゃちょっと言えないこともしました……で、でも、ご主人様は悪くないんですよ! だって普段は優しかったし、ホントに子ども好きの方でしたよ! 現に私は幸せだったと思います!」

「幸せ……?」

 その言葉に耳を疑った、幼児の頃から性的虐待を受けて幸せなんかあるものか……僕はそのご主人様と言うやつに怒りを隠せず歯を食いしばった。しかしレイラは楽しそうに言い始めた。

「だって、だって、食事が出るんですよ! 言う通りにすれば褒めてくれるし、私の事を可愛い可愛いって褒めてくれたんですよ! ご主人様は……! 普段はほかの奴隷の娘とよくお喋りしたんです、すっごい、楽しかったんですよ!

 ──信じられないってユリアとアデルとサラには言われましたが……でも本当に幸せだったんです! 佑月さん信じてください!」

「わかった……わかった、落ち着いて……」

 内心はらわたが煮えくり返って、声を荒げそうなのを僕は必死に堪えた。彼女を怖がらせてはならない、彼女の人生を否定してはならない、それは大人のすることじゃない、感情を鎮めさせて彼女の言葉を待つ。

「でも、そんな幸せな日々も続きませんでした……私が14歳になったころですね、その何故かわかんないですけど、ご主人様に呼ばれなくって、ああご無沙汰だなあと思ったら、いきなりご主人様に言われたんです、──お前も大人になったんだから客を取ればいいって。

 私馬鹿だから意味がわかんなくて、部屋の中で一人ぽつりと待っていると、知らない男の人が入ってきて、私思わず、声を上げちゃったんです……! それ……どうやらルール違反だったみたいで、あーあ、やっちゃったなあ。で、でして、私思い切り殴られちゃったので、大人しくその方の言うがままにしました。

 知らない男性とするのは初めてだったのですごく怖かったんですけど、でもご主人様の教えの通りにやれば、その方も喜んでくれました! ですからご主人様は正しかったんです! 

 で、ここ自慢なんですが、私、お客様の相手をしているうちに大人気になっちゃったんです! すごいですよね! 私もやれば出来るんです! そしたら休む暇もなく客を取らされて、流石に、私も疲れちゃって、休ませてくださいって……ご主人様に頼んだんです。

 そしたら変わった薬を持ってこられて、飲めって言われて、疲れが癒えるからって、言う通りにしたんです。そこから私の体が変になっちゃって、その……ぼーとして何も考えられなくて、楽しくなっちゃって笑い始めたんです、私! それからというものの時々自分がわからなくなるんです。

 そ、そういう時に男の方にその……静めていただけるとすごく楽になるんです! 変ですよね、私……! 今もそうで、私の方からアデルを誘ったんですよ! 全然彼は悪くないです! ええ、悪いのは私なんです! だから勘違いしないでください、お願いします! 佑月さん!」

 僕はなんと言葉を掛ければいいのかわからず、ただ、まごついた。余りものひどさに、僕は喉から声が出なかった。どうしたらいい……こういう場合、メリッサ……教えてくれ……。僕は沈黙を続けると彼女はそれを嫌がり、空を見ながら遠い目でこう言う。

「……私ね、運が悪かったんです、いろんなお客様を相手しているうちに、病気をもらっちゃんです、先輩たちに聞くと割とよくあることのようで、18の時死んじゃいました。……なんだかなー、あーあ、これからだったのになあ、ついてないなー」

「……君はそれでも幸せだったと言うのかい……?」

「もちろんですよ! ちょっとついてなかっただけで、屋根のある館に暮らせて、美味しいもの一杯食べましたよ、幸せに決まっているじゃないですか! ──心残りなのは先生になれなかったことです。

 ……私、馬鹿だから、頭のいい人に憧れるんですよ、佑月さんやメリッサさんみたいな。でね、子どもたちに勉強教えられるように頭が良くなりたかったんです! いいですよね、教師! 憧れます! 

 いっぱい勉強して、子どもたちに幸せになってもらって、頑張って―素敵な人生送ってねー、って手を振るんです、素敵ですよね? カッコいいですよね? ……あ、あれ、でも私今まで一度も勉強したことないや、なれるのかな、先生に? ホント馬鹿だな……私……!」

 あまりものの感情が湧き上がって思わず彼女を抱きしめてしまった。そしたら、レイラは「佑月さん……」と呟(つぶや)いて僕の前で屈んで、ズボンをおろそうとしたので、僕は急いで止めた。

「ちょ、ちょっと……待ってそうじゃない……僕には妻も子どももいるんだ、やめてくれ……!」

 そうするとすれ違いがあったことにレイラは気づき、冷静になった。

「そ、そうです。ですよね……! ……迷惑ですよね……私なんて馬鹿な女がこんなこと……!」
「違う、違うそうじゃない、君は女性として誇りを持つべきだと僕は思うんだ……!」

「誇り……? ごめんなさい、馬鹿だから、わかんないんです、いったいどういう意味でしょうか?」

 皮肉で言っている様子はない、本気で彼女は言葉の通りに思っているようだ。彼女は不幸であることすら自覚がなく、尊厳を踏みにじられようが、それが当たり前なんだ、彼女にとって……!

「……とりあえず男の人にそう言うことをするのはやめたほうが良い、君のためにならない」
「じゃあ体がうずいたらどうしたらいいですか……?」

「その時は……その時は、その……アデルに静めてもらって、と、とにかく男女の関係に気軽になるのは危険だ、やめたほうが良い」
「……はあ、そうですか……よくわかりませんが、貴方の言う通りにします! 頭がいい人に従ったほうが良いですよね! よくわかりました!」

 そう言って無邪気に喜ぶレイラを見ながら僕は首を振った。どうして……世界はこんなひどいことを、神はいったい……! そう思いながら彼女と他の話をして、彼女の気を紛らわせた後、皆のもとに帰った。

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