終末のヴァルキュリア 第四十九話 ミズガルズを更新しました。

2020年4月7日

 朝、目がさめると甘い匂いに惹きつけられる。

「おはよう、佑月は寝坊しまくりだな。シチュー作ったからな、ここは野菜が豊富でなあ、割とバランスの良い味になってるから食べてくれ」

 どうやらメリッサお手製の朝食らしい。一口、シチューをスプーンで口に運ぶと、野菜のトロトロの食感が広がりとても甘い。僕が甘党なのを知って味付けしてくれてるんだなあと、感慨深くなった。爽やかな目覚め、美味しい食事、まさに結婚日に相応しい幕開けだと思った。
 
「メリッサ」
「ん、どうした?」
「えっと……」

 結婚式のことを口に出そうと瞬間、何故だかわだかまりを感じてしまった。メリッサに女性と会ってたことを告げたら怒らないだろうか、そもそも他人の結婚式に行きたいと思う娘だろうか、不安がつのる。でも、何かが違う何か――

「何か話があるって昨日言ってたな」
 先に切り出したのはメリッサの方だった。

「う……うん、あのさあ、二人で行きたい場所があるんだ」
「どこへ?」
 僕は言葉に詰まった。

「付き合ってくれれば、解るよ」
「ふーん」

 メリッサがなんだか不機嫌な顔をした。当然だろう、あまりに不自然すぎる。でもそうするしかないような気がした。気がしてならなかった。

 僕はメリッサをミリアに会わせようと城へと案内した。その道すがらメリッサが調べていたこの世界――”ミズガルズ”の説明をしてくれた。

「ミズガルズは大きな島と小さな諸島でできている。彼らはここを大陸と呼ぶので名前はないという。そして大陸人はほぼ単一民族なので名前はない」

 ほう、なるほど他民族がいないから、自分たちの名乗る民族名がないんだな。

「それでは不便なので大陸をロガルド、民族をロハと――私は名付けた」
「どうして?」

「ロは彼らの言葉で自分を意味する言語で文章で、私はというと発音するときロハと使うのでだ」
 なるほど。わかりやすい。

「ロ――、ガルド。ガルドは世界の意味な、以外の諸島はたいした文明もなく人種が違うため、ロハ民族は他の民族を外人という。ロハ民族はかつて様々な部族に別れて抗争を繰り広げていた。大きな川がなかったため文明は発達せず、王権が存在しなかった」

 僕たちの世界の文明の始まり、古代文明は農業の発展から富の蓄財によって権力、王権が生まれた。もし、それがなければ王も存在しなかった、そんなところだろうか。

「大陸はそれぞれの部族で治められており、戦争と略奪の小競り合いの歴史だった。そこに現れたのがマレサという聖女だという。彼女は不老不死であり、知識、技術をロハ民族に与えた」

「そうして権力を握り、彼女を信仰する人々が集まり、マレサは教会団を作った。教会団に名前はないため、私はマレサ教と名付けた」

「マレサ教……」

「マレサ教は戦争を是とし優れた文明を築き上げ、瞬く間にロガルドを制圧した。そしてマレサが降り立ったというマハロブ山を教会団の本部とし、ロガルドを現在も支配している」

「王と神の一体した王権、つまり、神権政治を行い制圧した諸部族を公、候、伯、子爵、男爵に分け、それらに世俗的統治を任せた」

 そうか、古代エジプト文明のようなものか。

「彼らは圧倒的な権力を誇った。教会団に従わぬものは宗教裁判にかけられる。そのため組織の一部である異端審問官が情報を支配し、教会団の中枢を握っているという。ざっとこのロガルドの歴史を語るとこうなるが、いいか?」

 メリッサは僕にちゃんと理解しているか、顔を見てうかがう。

「ああ、いいよ。大体のことはよくわかった」
「問題は聖女マレサのことだ。その行動、知識、技術力からみて、ヴァルキュリアじゃないかって私は見ている」

「ヴァルキュリアだって? そんな昔からこの世界へ?」
「ああ、言ってなかったが、ミズガルズに飛ばされる時代はバラバラなんだ遠い過去に飛ばされても不思議じゃない」

 そんな昔からいたらこの生存戦争に有利じゃないか、この世界のことをよく知っているんだから。……そうか!

「――つまり生存戦争を有利に運ぶために、あるヴァルキュリアがこの世界の権力を握った……そういうことかい?」

「その通りだ。権力を握ってしまえばこの世界の人々を上手く使える。エインヘリャルの存在、情報を詳しく知ることができるようになる。また、意図的に争わせて一万人というエインヘリャルの数を効率よく減らすことができ、加えて勝者の情報を手に入れることができる……というわけだ」

 考えると寒気がしてくる。この大陸の人々全員を敵に回してまで勝たないと、僕は生き残れない。”民衆は体制に圧倒的に弱い”――メリッサの言葉だ。

 そんな相手に僕一人で立ち向かえるのか? 圧倒的な力を持つその敵に。

 僕が深く沈んでいると、メリッサは前にふさがってこちらを向き、

「とりあえず旅の目標は決まったぞ、教会団本部マハロブだ」
「敵のど真ん中に行くつもりなのか? 本気かい」
「このまま旅をしていてもなぶり殺しだ。教会団中枢を調べなければ勝利はない」

 ずいぶんと好戦的だ。でもそうでもしないと出来レースになってしまう、やるしかないか。

「そう言えばどこに行くんだ? このまま行くと城にたどり着くぞ」

 メリッサは不思議がった。それもそのはず。まさか城主と知り合いになっているとは思ってもいないだろうから。城門へとたどりついたあと跳ね橋が上がっているので、手を上げた。衛兵たちがこちらに気づくと、跳ね橋が降りてくる。

「すごいじゃないか! お前、どこでコネ作ったんだ!?」
「うん――ちょっと……ね」

 僕は苦笑いすると、メリッサは急に立ち止まる。僕はそれを気にしないまま、

「紹介したい人がいるんだ、こっちに来て」

 メリッサは何も言わない。
「今日はミリアって言う女の子で、彼女の結婚式だ。別に浮気じゃないよ、たまたま知り合っただけ」

 我ながら苦しい言い訳だ。言葉が通じないエインヘリャルに友達ができるなど、かなり難しい。メリッサは押し黙っている。

「メリッサも祝って欲しい」

 僕がにこやかにしていると、メリッサは低い声で僕にこう言う。

「いる……エインヘリャルがいる……。佑月! 戦闘準備だ!」
「違う違うんだメリッサ、別に戦う必要は……」

「エインヘリャルがいるのに戦いにならないわけがないだろう! ほら、早く!」

 しまったと思った。ヴァルキュリアにはエインヘリャルを感知する能力があった、それを失念していた。

「友好的なエインヘリャルかもしれないじゃないか。そんな好戦的にならなくても」

「何を言ってるんだ一万人のうち十二人だぞ一人でも余計なのがいると邪魔になるから戦うに決まっているだろ、相手も無論そのつもりだ。まさか怖じ気づいたんじゃないだろうな」

「そうじゃない、そうじゃないんだ……」

 僕が必死になだめてもメリッサはきかない。変な誤解を生む前にちゃんと説明しとけば良かった。次の瞬間、僕の不安の原因がわかった。

「もしかして、お前エインヘリャルと会っているんじゃないだろうな?」

 メリッサの鋭い勘が僕に刺さる。
「もし、そうならお前だまされているぞ! これは生存戦争だ。あらゆる手を使って殺しにかかる。生きるか死ぬかの問題だぞ!」

 メリッサは言いだしたら聞かない。仕方がない、そう仕方がないんだ。そう自分をごまかした。

「メリッサこっちに来てくれ、見てほしいものがある」

 訝(いぶか)しむメリッサ。メリッサは神妙な顔をしてこちらについてくる。僕は階段を降り地下に入っていった。僕の悪い癖だ、彼女を納得させるだけの説明をできる自信が無い。ちゃんと勉強してこなかったツケだ。

 石をける音を響かせながら、奥の頑丈な扉に彼女を招く。

「何もないじゃないか、どういうつもりだ?」

 僕は黙って彼女を残し、部屋を出て、扉を閉め、かんぬきで錠をかけ、扉が開かないようにした。……すまない、僕が悪いんだ。

「何をする佑月! 開けろ! 開けろ!」

 ――メリッサ、本当はこんなことをしたくないんだ。でも今日はミリアの結婚式なんだ、絶対に見届けなければならない。それが終わったらメリッサと一緒にこの町を離れよう。

 僕はどうしても”普通の幸せがどういうものか”見届けたいんだ。

「開けろ! ゆづき――――――――――――――――――――――!」

 メリッサの声が地下に木霊(こだま)する。僕はそれに耳を塞ぎながら、走って城の教会部屋に向かった。中にはすでに、貴族たちが集まっており、顔見知りの貴族と軽く抱き合ってあいさつをすました。

 やがて楽器の音が教会に鳴り響く、そして男たちが歌を歌い始める。それにならって会場の皆が歌う。

 ――荘厳で神聖な雰囲気の中、新郎新婦が教会の中に一歩、一歩、入ってきた。


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