終末のヴァルキュリア 第五十話 ミリアの結婚式

2020年4月7日

 ミリアは朱色のドレスを着て花柄のベールをつけている。そのとなりには、ロハ族衣装を飾ったメンフェスがいた。美男美女が美しく着飾ったその姿は絵に描いたような新郎新婦であり、幸せを描いたようだ。

 合唱される歌と楽器の演奏の中、中央のウェディングロードを二人で歩く。僕が知っている結婚式とは違う。でも幸せを祝う式だと十二分に感じた。神聖で荘厳な心地、心が透き通ってくる感じがする。

 やがて、辺りは静かになり神父の前に立ち、聖書だろう、読み上げる。二人はそれをじっときいたあと横から修道女だろうかが、金で飾っており、美しい装飾した箱を持ってきた。

 メンフェスはそれを開け、手にネックレスを持ちベールをかき上げ、ミリアの首にかけた。そして膝をつき手にキスをした後、ミリアがそれを抱きしめた。

 そうして、メンフェスは立ち上がり、ミリアとキスをした。その時楽器の音が鳴り響き、大歓声が聞こえる。これが結婚の誓いの証だろう。神父が何か言ったあと僕たち観客は外に出た。

 大歓声の祝いの空気。ミリアとメンフェスは恥ずかしそうにゆっくりと外に出ていった。みんな、何言っているか解らないが、声をかけているので僕は、

「ミリア! おめでとう! おめでとう!」

と、叫ぶ。修道女が何やら鳥かごを持ってきて、色鮮やかな鳥をミリアは手に取り、天高く飛ばす。地面がうなるような大歓声、その中ミリアとメンフェスは幸せそうに手を握っていた。

 城に戻り大広間に僕たちは待たされた。長い時間僕はここで過ごさなければならないので、かなり退屈だった。部屋の周りの人間は会話をしていて楽しんでいたので、独りぼっちな僕はこの時間は苦痛だ。日は傾き夜になる。

 そうしているうちに、奥の扉が開きメンフェスとミリアが白い服と白いドレスを着て現れた。和やかなムードで、メンフェスが他の貴族と話している間、僕のところにミリアが近寄ってくる。

「おめでとう、ミリア」
「ありがとう、ユヅ。こういう格式張ったのは、待つ方はつらいでしょう」
「まあね」

 そう言って僕は苦笑する。それにつられて彼女も笑う。彼女はとても幸せそうだ。

「このあとどうなるんだい、ミリア?」

 すっと、ミリアの顔に暗い影が差し込む。

「二人が一つになるのよ、それを侍女が確認したあと、おめでとうと言って結婚式は終わり」
「そうか、女性には不安だよなあ、大丈夫だって相手はメンフェスだよ」

 僕がそう言うと、ミリアはうち沈み、ふと呟く。

「――結婚なんてしなければよかった……」

 えっ今なんて? 僕には聞き取れなかった。

「どうしたんだよミリア、幸せの瞬間じゃないか」
「うんそうね、ユヅ。でも私は……」

 何かを言いかけたあと、侍女が呼んでいるのだろうか、ミリアは侍女とともにメンフェスといっしょに奥に引っ込む。

 愛する人と一つになる、どれだけ幸せを感じられるのだろう。僕はメリッサのことを思い浮かべる。僕とメリッサもこういう日が来るのだろうか。

 僕は幸せの形を思い浮かべる。となりにいるのはメリッサ。その真ん中にいるのは僕たちの子ども。幸せそうに手をつなぎ、とりとめのない日常会話を楽しむ。

 笑い続ける僕たち。僕は強い人間じゃない、でも手に入れた家族は絶対に幸せにする。それが僕にとっての今の願い。僕は心に誓いを立てる。

 そう言えば、メリッサはどうしているだろうか、絶対怒っているだろうな。僕は日本式土下座を覚悟した。

 しばらくすると大きな足音が聞こえる。そこら辺走り回った軽い音がした後、少女がこちらに向かってきた。

「佑月!」

 しまったメリッサだ、飛び出してきたように眼の前に現れ、辺りは騒然とする。すぐさま、メリッサが何かを言う前に彼女の小さな足に、頭を下げ、日本式土下座を確実にこなす。

「ごめん! 許してくれ! この通り!」

 周りが何があったのかと、皆こちらを見つめた。

「何のつもりだ! 理由を、理由を説明しろ!」

 もちろんメリッサはご立腹だ。必死になだめながら理由を説明をする。

「――という訳なんだ」

 それを聞くとメリッサはみるみる紅潮し、激怒する。

「バカを言うな! エインヘリャルとロハ民族とで、愛が生まれるわけないだろ!」
「それが生まれたみたいなんだ、珍しいと思うけど」

「いいか、エインヘリャルとロハ民族とじゃ言葉が通じないだけじゃない、価値観、日常、考え方、食事、作法、礼儀、娯楽すべてが違う、まったく交わらない平行線の世界なんだ!」

「なんでそう言い切れるんだ?」
 あまりにもまくし立てるので少しカチンときた。

「前例がないからだ!」
「じゃあ、今回が初めての例なんだな」
「お前は何もわかっていない、おそらく……」

「キャアアアアア――――――――――――!!!」 

 あの声はミリアか? 貴族たちからどよめきが起こった。何が起きたのかさっぱり理解できない。

「くそっ! やはりか!」

 メリッサは当然のように奥の扉に急ぐ。

「まて、メリッサ!」

 僕はそれを追いかける。声がする方向にメリッサは向かった、そして奥に進み 扉を開く。そこで想像しない光景が眼に飛び込んだ。

 ベッドの上に裸のミリアがおり、その手前には地面から生えた大きな槍が深々と刺さったメンフェスの姿があった。

 メンフェスの胸から血が流れておりおそらく即死だろう。その様子を見るやいなや、ミリアの元にメリッサは駆け寄る。

「お前、何をやったのかわかっているのか!?」
「だってどうしても彼が一つになりたいって言うから! 愛してるって言うから!」
 
「――ヴァルキュリアは他人と交わることが許されない! それを知らないわけじゃないだろ、”ミリア・ヴァルキュリア”!」

――え、なんだって?――

後→第五十一話 砂城の愛
前→第四十九話 ミズガルズ
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