終末のヴァルキュリア 第五十二話 砂城の愛②

2020年4月7日

 メリッサは庭園の大きな石を投げ、罠が仕掛けてないか丁寧に調べていた。

「よし、罠は仕掛けてないぞ」

 僕は噴水の囲いに座っていた。言葉が出なく、頭の中が暗くなって、闇に取り込まれた感じだった。隣にミリアが座り、うずくまった。横目で見ると、こちらも深い絶望に打ちのめされており、ひたすら泣いていた。

 そこにメリッサがやってきて、泣いているミリアの頬を叩いた。

「泣くぐらいなら、何故止められなかった!」

 その怒声に鬼のような表情でにらみ返し、

「しかたないでしょ! 私だって女よ!」
「それが愚かだと言うんだ! ヴァルキュリアは神だ、それを忘れるなんて言語道断だ!」

「言ってくれるわね! 貴女でしょ、ユヅの好きな人って。彼、一向に恋愛が進まないって、悩んでいたわ。何故本当のことを言わなかったの? そりゃあ、できないよね。実はユヅと本当に一つになることはできないなんて」

「言ってしまえば、はい、おしまい、ユヅの心が離れてしまうからでしょ。だからでしょ! 卑怯な女!」

 壊れていく。僕の思い描く幸せ。家族像。メリッサとの愛の形。

「そ……それは、機会がなかっただけだ!」

 僕はメリッサにからかわれていたのか? 僕と一つになれないことを知っていたのに。頭を抱え、指先に力が加わっていく。

 ミリアはメリッサに向かって、こう告げた。

「言い訳しないでよね! 私がどれだけ苦しんだかわかる!? こんなにも愛しているのに一つになれないなんて。だから私ははっきり言ったわ。貴方とはひとつになれないそれでもいい? って」

「そしたら彼、なんて言ったと思う? 君と一つになれるなら、死んでもいいって」

「そんなこと言われたら女は、もう、どうしようもないじゃない! メンフェスはそれでもいいって、愛してるってああ……メンフェス……」

 僕はメリッサを愛しているからここまで頑張って来られたのに。遊びだったのか? メリッサ……。

「そ、それでも! 相手のことを考えるなら止めるべきだった。死んでしまうぐらいなら、相手を止めるのが当然だろ!」

 メリッサはうろたえながら叫んだ。

「なんで私の気持ちがわからないの! 止められなかったっていってるでしょ! 私の肌をはう唇、優しく私の敏感なところを攻める指先、私の秘密の場所を攻められたとき、天にも昇る心地だったわ。この人なら全部あげちゃいたい、女だもん当たり前でしょ!」

「そうよ、貴女は感じたことがないのよ! いや、感じないよう、卑怯にも逃げていたんでしょ。ユヅからちゃんと聞いているんだから、大事なところ触らせてくれないって。そりゃそうよね、そのまま行くと私と同じことが起こるものね!」

「でも、それを正直に言わなかったのは何故? 恋愛ごっこを楽しみたかっただけだもんね。そりゃ無理ね。貴女たちは平行線、絶対幸せになれないわ。はっきり言ってあげる。貴女はただの娼婦よ! ただし出来損ないのね!」

 言い返すミリア。

「違うっていってるだろ! 何様のつもりだ! 愛する男を殺す女が、まともだというのか、私は純粋なだけだ!」

「純粋? なにそれ? バカじゃないの? 男は女にキスをしたら抱きしめたくなるし、抱きしめたら触りたくなるし、上を触ったら下も触りたい。女の秘密の場所を見てみたいそして一つになりたい。それが男と女。純粋なんて、笑えないコメディショーよ!」

 こうなっては、もはや感情論の口論だ。

「違うっていってるだろ! 私はただ……」

「もういい加減にしてくれないか!!!」

  僕は叫んでいた。もう、これ以上惨めになりたくはなかった

「二人とも楽しいか? 男の気持ちをもてあそんで。所詮、人間の男なんて、神にとっては遊びなんだろ!」

「違う! 私は!」

 思わず、メリッサとミリアの声がハモってしまったようだ。

「僕は本気だった。真剣に愛していた。メリッサといっしょに家庭を作って子どもを作って、優しい父親や夫になりたいと思っていた。それが僕の求める、普通の幸せだって! 信じていたのに! メリッサ、君は僕を裏切った!」

 僕は心の底から叫んだ。そうすると、メリッサは急に優しい口調になって、

「私も同じ気持ちだ。佑月と温かい家庭を作りたいって……」

「でも、できないんだろ! じゃあ意味ないじゃないか! こんな砂の城でできた愛なんて、いつか壊れるに決まっているだろ。海の波に流されてハイ終わり。それじゃあ意味ないんだよ!」

 メリッサは少し涙ぐんで震えた声で、

「愛だっていろんな形があるだろ……、お願いもう一度私を信じて……」
「信じられないね!」
「信じてくれ!」

「僕は君のためなら何でもする気だった。人間になりたい? いいじゃないか僕はどんな形でもメリッサを愛する気だった。でもそれは幻想だった」

「君は本当のところで僕を信じていなかっただろ! 君が望まないなら、それでもよかった。でも、君は間接的に嘘をついていた。どんなにこちらが愛しているつもりでも、君が僕を愛していないなら意味がないじゃないか!」

「僕はそのために戦ってきたのに!」

 声が庭園に虚しく響く。

「――メリッサとひとつになれないなんて……」

 それは、もはや慟哭に近かった。木霊(こだま)する声。ざわめく植えられた木。

「お願い佑月こっちを見てくれ、私の瞳を見て、そしたら信じられるから……」
「嫌だね!」
「お願いだ! ……こっちを見て……」

 メリッサの声が震え、嗚咽(おえつ)混じりになる。僕はメリッサの顔を見なかった。

 ――終わりだ……これで……すべて……。

「――こちらから声がするぞ!」
「ミリア様がおられる! お助けするぞ!」

 この城の騎士と貴族たちが追いかけてきた。突然、僕はミリアを連れて声とは反対側に行く。一人おいていかれたメリッサは動揺した様子で、後ろから叫んでくる。

「まて! 佑月、どこへ行く!」

 メリッサが叫ぶ。

「君の指図は受けない!」

 僕は後ろを振り返らずに言う。城の城壁につながる跳ね橋を渡り、内部の道に躍り出た。

 周りを見る、奴がいた。どうやら、セルモアが待っていたようだ。

「ようこそ、ここからがショータイムだよ」

 セルモアがほくそ笑み、まるで、大道芸人が、これからの舞台を見せたがるがごとく、頭を下げあいさつした。

次→第五十三話 砂城の愛③
前→第五十一話 砂城の愛
リスト→小説

にほんブログ村 小説ブログ ライトノベル(小説)へにほんブログ村 イラストブログへ