終末のヴァルキュリア 第五十五話 朝日

2020年4月7日

「何故……ぼくが……こんなことに。頭がクラクラして……目が見えない……解っているかミリア、これは自殺だぞ……」

 神への恨み言のようにぽつぽつとセルモアはつぶやく。

 そうヴァルキリアはエインヘリャルとの戦いに介入できない。ヴァルキュリアが相手のエインヘリャルを攻撃すると、因果律が狂いパートナーのエインヘリャルに災厄が降りかかる。これは鋼鉄の法則。それ故ヴァルキュリアはエインヘリャルに対して無抵抗になる。

 何度も僕が戦いで経験した教訓だ。

 セルモアはあまりにも高揚するあまり失念していたのだろう。いやもしかすると、そういう経験は踏まずに戦ってきたのかもしれない。罠を張り巡らし、策で相手を弄し、こういう真正面からの勝負をしてこなかったのだろう。

 いざという時の、戦いを準備してこなかった。だからあんなヴァルキュリア任せな乗っ取り策を立てたのかもしれない。しかも、そのヴァルキュリアとの信頼関係すら心の外に置いて見逃していた。

 セルモアはフラフラ歩き続け、この場から逃げようとする。足の歩を進めたその時、地面から炎柱が上がった。

「うあああ――――――――――!!!」

 セルモアは自分の仕掛けた罠に引っかかり、体が燃えさかり、炎に包まれていく、あたりに肉が焦げる独特の匂いが立ちこめ、思わず僕は鼻を覆った。

 炎が消え去ったときセルモアの姿はなく、焼け残った消し炭が残るだけだった。ヴァルキリアが敵のエインヘリャルを攻撃するとこうなる。つまり、自ら罠を踏む羽目になったのは鋼鉄の法則性だ。

 それを満足げに見つめていたミリア。

「当然の結果だわ」

 そして、消し炭を侮蔑した面持ちで見下ろす。

「おなかの調子はどう?」

 こちらを向き、ミリアは自分で刺した僕の腹を気にした。

「ちょっと、痛いね」

「そう、なら、大丈夫ね。相手のエインヘリャルに攻撃しないと因果律が狂わないから思い切ってザクッとやっちゃった。……ごめんね」

「それよりも、これでよかったのか? パートナーのエインヘリャルが死ぬということは君自身も……」

「そうね、私も消えることになるわね。――でも、メンフェスを馬鹿にされて黙っていられるほど冷徹な女じゃない、こう見えてメンフェスの妻だから……」

「そうか……」

 ミリアの体が光に包まれていく。

「メリッサさん良い娘じゃない。私気に入ったわ。カーとなっていろんなこと言っちゃったけど、私の好みのタイプだわ。二人ともお似合いよ。幸せにしなさいよ」

 ミリアは僕に満面の笑顔で微笑みかけた。

「僕は……その……彼女を傷つけた」

「ちゃんと謝っちゃいなさいよ女は根に持つから。難しい恋だと思うけど、きっと貴方たちなら大丈夫。私とメンフェスみたいにはならないと思う。大切にしなさい」

「幸せは自分たちで互いに合わせて作るもの。そしてそれを守り続けるのが男と女。貴方たちみたいな恋愛もあって、素敵なことだと私は思う。がんばってね」

 徐々に体が透けていくミリア。

「あ、そうそうメリッサさんに私からゴメンねって言っておいて。あれ、本心じゃないから。私はヴァルハラに行っても貴方たちのことを応援しているわ。ガンバレ! ユヅ……」

 それを言い終わったあとぽつりと、
「……好きだったわ、ユヅ。……世界で二番目にね……」

「……ミリア!」

 思わず声が出てしまった。彼女は笑みを浮かべながら振り返り、真っ直ぐと燃え上がっていた残り火を見つめたようだった。一歩一歩静かに進んでいく、そして、城の硝子のない窓からひとすじの風が舞い込み、彼女を覆うシーツを奪い去った。

 衣一つ無い体。そこには一切の飾り気のない彫刻美の滑らかな裸体があった。まさしく女神だ。長い金髪を揺らす風。外を見遣ると空は雲一つない満月が燦々(さんさん)と輝いていた。

 消し炭のあとを見たミリア。彼女の足がその手前でふと止まる。静かに金色の長い髪の毛が揺れていた。静寂が城を包みこむ。彼女がゆっくりと手を見た、そこで、透明の手だったものから、じわりじわりと彼女を包んでいくのを確認しているようだった。

 その刹那、勢いよく炎のあとに飛び込んだ。

 地から炎が舞い出で、煉獄の炎の中、金色の女神は愛しき人の名を叫んだ。月明かりがライトのように差し込み金色の女神を煌々(こうこう)と輝かせる。――愛の終末の美。赤く肌を包み、咲く彼岸の花、それはまるで夜空の星々に包まれた月のよう。

 舞い上がる炎にひらかれる愛の花びらが、ゆっくりと消えていく。そこには彼女の生命の美麗さを感じさせた。そしてゆっくりとまた、静寂が訪れる。消えた親友に僕はひっそりと涙を流した。

 ―――――――――――――×○×○×○――――――――――――――

 朝日が昇ってくる。僕はメリッサを抱き城壁の上に立っている。彼女の体はもはやメリッサだ。だが、目を開かない。ゆっくりとその時を待つそして、メリッサの目に差し込む。うっ……と、声が薄紅色の唇からもれると彼女は目を開いた。

「生きてる……勝ったんだな……佑月」
「ミリアのおかげさ……僕はまだまだだ」

「……そうかあの女が、でも、私は信じていた、佑月ならあの状況でも生き残れる、私を守るためなんとしてでも勝利をもぎ取ると」
「ああ……そうだね」

「すまない、ヴァルキュリアの秘密を黙っていて。別にお前をからかっていたわけじゃない。本気で好きなんだ。だから言えなかった……お前の子どもが産めないということを」

「構わないさ、僕の愛は変わらない。僕こそ感情的に罵ったりしてごめん、大丈夫、気持ちの整理はついた。僕はメリッサ、君を愛している」

「佑月……」

「泣いているのかいメリッサ?」

 メリッサの瞳から白い肌をつたい涙がこぼれ落ちていく。

「はは、かっこ悪い姿見せているな。不安だったんだ、佑月と一つになれないことを知ると私から離れて行ってしまうんじゃないかと。でも、私は本当に佑月のことを……」

「わかっている。何も言わなくていい」

 僕はメリッサの上半身を抱き寄せキスをする。

 しばし、時間が止まった感覚がする。僕は知った、これが愛なんだと。

「温かい……こうやって幸せを積み上げていくんだな」
 メリッサがつぶやく。僕は微笑んで見せて、

「誰かが言っていたけど幸せは自分達で作って守るものだってさ」
「哲学者だな……そいつは」
「……ああ」

 僕は真っ直ぐ彼女を見つめ、

「僕たちも作っていこう幸せの形を」
「ああ、そうだな!」

 しばらく二人で朝日を眺めていた。時間が経っていくと胸元から寝息が聞こえる。死んで生き返ったんだ。よっぽど疲れたのだろう、僕の胸元で天使の寝顔を見せている、メリッサを強く抱きしめた。

 決心した、決してこの愛を手放さないと。この愛は永遠だ。この娘と幸せを築いていく、たとえどんな困難がこようとメリッサを愛し続ける。これが僕の愛の形であり。僕が求めていた普通の幸せだと信じている。

 メリッサを守り続けていく――

 朝日が昇りまぶしい光に僕たちは包まれていく。メリッサを見ると銀色の髪が透き通って光り輝き神々しく今にも天に昇っていきそうな心地だった。僕は彼女が逃げてしまわないよう、強く強く抱きしめる。

 この愛は永遠だ。それを太陽に見せつけるようにメリッサを抱きしめていた。

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