年の差カップル純愛異世界ダークファンタジー小説 終末のヴァルキュリア第六話 日常②

2020年4月6日

第六話 日常②

 老人だった体から血が吹き出る。周りの人に血がべっとりとかかった。死体がその場に倒れる。だというのに武装した男たちはゆっくりとその場を後にしていった。すると町の人々は何事もなかったかのように日常に戻る。

 僕はその奇妙な光景に違和感を覚えながら、さっき起こった出来事に怒りで震えていた。

 僕は今、何も武装していない、でもこんなこと……。さきほどの男たちを追う。道の真ん中を堂々と人にぶつかりながら歩いていると、手を強引につかまれる。

「やめておけ」

 振り返るとそこにメリッサがいた。

「あいつらを許すわけにはいかない」

 僕が強く答えると、メリッサは真剣な目で、「これが中世だ」と投げかけた。彼女に引っ張られ、宿の部屋へと連れてこられた。

「なぜ止めた」と僕はメリッサをにらむ。
「これがここでは普通なんだ」

 メリッサの答えに僕は驚く。

「普通? あの老人が何をしたって言うんだ!? ただにこやかに立っていただけだろ。それを、なんで!?」

 たまっていた鬱憤(うっぷん)を吐き出す。

「あの馬上の男はこの地方を治めるプランタージュ伯の息子、モンターニュ子爵だ。残忍で冷血極まりない。なんで殺したかって?」

「それはわからない。イライラしていたのか、相手が乞食だから試し切りをしたのか、ニタニタしていたのに気分を害したのか」

 メリッサは淡々と答える。

「そんなことで!」
「そんなことで殺されるんだ。中世では領民なんて物扱いだ。貴族がその気になったらいつでも殺す。人権がないんだ」

 僕はメリッサの言葉を黙って聞いていた。

「自力救済といってな、法が整備されていない時代は自分の権利は、自分で守らなければならない。誰かが害されても他人は誰も助けない」

「貴族の非道な行為は、自分で武装して守らなければならない。反乱だ。そうして血を流した果てにようやく徐々に権利が認められる」

「なら、なんでこの町の人々は反乱を起こさない? こんな非道を黙ってみているだけなのか?」

 怒り混じりに言葉を吐き出す。メリッサはため息をつき、

「なら、例えてみよう。お前が死ぬ前、現実の日本社会に不満があっただろう。私はヴァルキュリアとしてお前の人生、心の動きを見ている。だからわかる」

「だったら、何故テロを起こさない? 自衛隊の駐屯地から武器を奪って、原発なり国会議事堂でテロを起こしてみろ、霞が関がひっくり返るぞ。できるか? できないだろう」

 僕はハッと何かに気づきおもわず口ごもってしまい、何も言い返せない。

「できなくて当然だ。民衆は体制に対して圧倒的に弱い。みんな自分が生きるので精一杯だ。赤の他人を救うコトなんて、夢のまた夢だ」

「それでいい、弱いんだから。その弱さを受け入れるんだ。自分の大切な者、自分の愛してる者、仲間、友人を救え」

「そのほかのことは考えるな。手に余る同情や憐憫(れんびん)はその身を滅ぼす。いいな」

 そうどこか寂しげに言うとパタンとベッドに寝る。

「疲れたから寝る」メリッサはそう、つぶやく。

 ベッドは一つしかない。何故この宿の主人はこの狭い部屋を用意したのだろう。よくわからない。しかたないから僕は木の板で作られた床で寝た。固い床に難儀しながらもよっぽど疲れていたのか、すぐに眠りへと誘われた。

 部屋に光が差し込む、その強い日差しに当てられて目が覚めた。朝だ。あくびをしながら外を見る。

 そうか、異世界に来たんだったな。ベッドを見るとメリッサがすうすうと眠っている。本当に寝ているのだろうか。可愛い寝顔だ。こう見ていると十五ぐらいの少女にしか見えない。

 とりあえず、彼女の胸をもんでみる。

「おっぱい」

 メリッサは起きていた。ぱっちりと目を開きこちらを見る。するとメリッサは素足で僕の股間を握りつぶす。

「痛たたたたた!!」

 僕あまりの痛みに床にひっくり返る。メリッサは僕の股間を踏み、足を巧みに使い股間を握りつぶす。

「この部屋にベッドが一つしかないのはなあ! 奴隷は外の厩(うまや)で寝るからだ!」

 僕の股間をもてあそぶと気分が収まったのだろう、窓に向かってあくびをする。そして何事もなかったかのように「さあ、朝食だ行くぞ」といそいそと外に出る支度して宿の部屋のドアを開けた。

 この宿の二階は寝室で一階は食堂になっていた。メリッサがあれこれメニューを頼むと食事が運ばれてくる。パンとスープと豚肉だろう、肉料理たちがそれぞれに木皿に盛り付けをされてスプーンが並べられた。

 どうしていいかわからずとりあえずパンをつかむ。

 パンにかじりついた僕はかみ切ろうとするがあごが動かず、口は四角い形で固まった。硬い……。

 あまりの硬さに歯が欠けるかと思った。メリッサを見てみる。彼女はパンをスープにひたしていた。

 僕も彼女の真似をしてスープにパンをひたしてパンをかじる。それでも硬い。よくメリッサを見るとパンをもみながら、小さくちぎって食べていた。それを真似をしてみた。

 そしてパンを口に運ぶ。あまり味がない。スープの旨みで甘みがあったが、僕の口には合わなかった。

 でも出された食事だ。文句一つ言わず食べる。

「何か話せ」

 メリッサがぶっきらぼうに投げかける。え? 静かに食べるのがマナーじゃないのか? 周りを見てみると、男たちがぺちゃくちゃしゃべりながら食事をしている。

 なるほどカルチャーショックだ、まあ、でもここは大人の男だということを証明しなければならない。彼女を楽しませる話題を考える。

「なあ、昨日エインヘリャルを倒したときヴァルキュリアも光に包まれて消えたな。あれはなんだ?」

 出た言葉は無骨な事柄だった。

「ああ、それか。ヴァルキュリアはエインヘリャルと一心同体だ。エインヘリャルの魂が消えるとヴァルキュリアはヴァルハラに戻される」

「──と言っても人格、記憶、体すべてが消える。このスプーンの中にあるスープが、スープの皿に戻される。何か変化あるか? ないだろ? 量が多ければスプーンの中のスープなど何事もなかったかのように元に戻る」

「ヴァルキュリアはヴァルハラの魂の集合体からこぼれた人格だ。単純に見れば文字通り、この数あるすべての世界から存在が消える」

 メリッサは平然という。

「なんでそのことを説明しなかったんだ! 僕が死ぬと君も死ぬことになるんじゃないか!」

 僕は荒げた口調で彼女に畳みかけた。

「重荷になりたくない。他に質問はないか?」
「そんなに大切な戦いなのに何故僕一人に戦わせた。二人で戦った方が勝てる可能性が高いだろ?」

そう尋ねると、メリッサは急に真面目な顔になって、

「ヴァルキュリアはエインヘリャル同士の戦いには参加できない。もし参加すると因果律が狂ってパートナーが不利な目に遭う。見方を変えれば、私は敵のエインヘリャルに襲われても無抵抗であるしかない」

 呆然とする。つまり、僕は自分の身を守ると同時に、メリッサを守らなければ彼女に害があたえられると言うことだ。ひどい話しだ、こんな可憐な少女が無防備で戦闘の中に放り込まなければならないとは。

「もう一つ質問させてくれ。イメージした武器を変えたいとき、君がいなければどうなる」

 彼女は木のコップの中にある水を少し飲む。

「どうにもならない。私がいなければ新しい武器を創ることはできない。加えて、昨日クロスボウをイメージしたとき、矢は十本しか創造できなかっただろう? イメージには制限がある」

「確固たるイメージがなければ矢や弾は創造できない。つまり、イメージできる武器には弾の数の制限があると言うことだ。そして始めにイメージした物を消して次に生み出すとき約3分から5分かかる。ざっと説明すると、こんな感じかな」

 それに彼女は付け加える。

「イメージした武器を創造するという、特殊能力ゆえの不便さがあると言うことだ。ちなみに元から武器が与えられているタイプのエインヘリャルにはヴァルキュリアがついている必要性はない」

 彼女はふっと息をつき、

「まあ、足手まといにならないよう逃げ回るやつもいるだろう。お前は、私がそばにいなければ特殊能力を発揮できない。そこら辺は不利だな」

 彼女はスープをかき混ぜた。

「だが考え方を変えると私がそばにいる状態ならば敵に合わせて、様々な武器を使える。敵のエインヘリャルと相性によって負けることはない。すべてはお前の知恵、機転、頭の回転の良さにかかっている」

 なるほど肉弾戦じゃなく頭脳戦か、それならこの戦いにも勝ち目が見えてくる。

「朝食を済ませたら、買い物に行くぞ」

 なにやらメリッサは楽しそうだ。こういうところに女の子っぽさがあっていいな。

 ナイフ、ショートソード、小さな鞄、大きく背負うタイプのバッグ、毛布、地図、食料。どんどん荷物が増えてくる。もちろん持つのは僕だ。

 途中、大柄の男がメリッサに絡んできた。彼女はあっさりと組み伏せ、喉にショートソードを当てる。笑いながら。

 メリッサとの買い物が終わる頃には日がくれていた。

「私とのデートは楽しかったか?」
「ええ、もちろん。お姫様」

 お世辞じゃない。彼女は楽しそうによく話す。ときには一歩引いて僕を立ててくれたり、わざと頼るふりをしたり、褒め上手でもある。非常に気立てのいい娘だ。

 これで口が悪くなければ男の理想とする女の子だろう。僕はそう感じた。

 狭い裏路地を通っていると周りが真っ暗になる。なにやら声が聞こえる。

「やめてください!子爵様!!」
「誘ってきたのはそっちだろう? なに十分に喜ばせてやる」

 僕らは隠れて成り行きを見ている。周りには2人ほど武装した兵士がおり、老人を殺した、あのモンターニュ子爵が美しい町娘に絡んでいる。子爵は町娘の服を脱がす。

「いやあああ――!誰か!誰か!」

 子爵は現れた乳房と尻に舌なめずりをした。僕はメリッサに言う。

「――ヴァルキュリア、僕に力を貸せ」

 やれやれといった様子でメリッサが目を光らせ、瞳の色が碧眼から金色に変わる。世界がゆがんでいく。

「――イメージしろ。お前は何を思い描く?――」

――――

「いや、やめてえ! やめてえ!!」

 子爵がいやらしく笑ったところで、はっと目を開く。動きが止まる。美しい町娘は何が起こったかわからない様子で、倒れる子爵を呆然とみていた。

 子爵の尻には深々と矢が刺さっている。

「誰だ!」

 二人の兵士は周りを見渡す。だがこの暗さだ、まともに見えないだろう。

「敵国の刺客かもしれん、この場は子爵をお守りするために館に帰るぞ」

 二人の兵士は激痛で気絶した子爵を抱えてこの場を立ち去った。僕は町娘に近寄る。金髪(ブロンド)で黒い瞳をし、美しい顔立ちをしている。

「大丈夫かい?」
「いやあああ――! 来ないで!」

 しまった言葉が通じないんだ。僕はクロスボウを後ろに隠し、危害を加えるつもりはないことを表す。

「いや! いや! いやああ!」

 ブロンドの町娘はパニック状態。みかねたメリッサが中に割って入る。

「この男はお前を助けたんだ。スケベ面しているが、根は優しい男だよ」

 女同士で話をしたようだ。僕には何を言ったか解らないが、町娘は落ち着き、僕とメリッサをみて、安心した様子で衣服を整えた。

「家まで送っていこう、もう夜だ」
「この男は家まで送りたいそうだ。家はどこだ?」

 メリッサが通訳してくれる。ブロンドの町娘を家に送った頃にはあたりは真っ暗。

 そらには星々と三日月が見えている。

 娘が家に入るのを確認すると、メリッサはため息をつく。

「他人などほっとけって言っているだろう」

 そう言って一呼吸置いて、

「まあ、そういうお前は結構好きだぞ」

 メリッサが美しく微笑む。月の光に銀髪が透き通って光り、ふわりと風になびかせながら、嬉しそうに歩く。その美しさに心安らぐ。今晩はいい夢が見られそうだ。

 そうして僕たちは二人でとりとめのないことを話しながら宿へと足を向けた。

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