純愛ファンタジー小説 終末のヴァルキュリア 第七十四話 嫉妬

2020年11月18日

「あきれたものだ。連れて帰ってくるとはな」

 メリッサは眉をひそめて、じっとりとした湿っぽい目でこちらを見る。僕が日向さん似の女の子を連れて宿へと帰った時、そろりと部屋に入った途端、浴びせられた最初の小言がこれだ。

「お前は捨て猫が置いてあったら拾うのか。それともお前は幼女に何かしらやましい気持ちがあるのか。おいそこの小娘、お前も猫なら鳴いてみろ、ニャーと」

 女の子にメリッサは詰め寄る。やはり不機嫌だ。こうなる予想はしていたが、いよいよとなると胃がキリキリと痛む。

「みゃー」

 彼女の悪口(あっこう)に対し女の子は可愛らしく子猫のように鳴いた

「鳴くのかそれは困ったな……」

 メリッサは頬に指を顎に当て、首を傾けている。彼女の予想した反応とは違うらしい。

「お前、名前は?」
「みゃー」
「ヴァルキュリアはどうした?」
「みゃー」
「……何の能力を持っているのか?」
「みゃー」

「可愛くない!」
 メリッサはぷいっと後ろを向く。足をドンドンと地面をけり地団駄踏んでいる風にも見えた、あからさまに彼女がいら立っていた、メリッサも子供じみたところもあるから引けないのだろう、困ったな……。

「この娘を、屋根があるところで、眠らせたいんだ。いいだろ、頼むよ、メリッサ」
 僕はゆったりと目をつぶり、頭を下げる、そう言えば、西洋人の顔立ちをしたメリッサに、日本式にお辞儀しても効果があるのだろうか。日本式土下座は何度か効果があったけど。

「お前のベッドを使え、私はもう寝る」

 メリッサは二つあるベッドの奥のほうに入り、こちらに背を向けて、眠ったふりをする。ようするに僕がどうするつもりか観察しているようだ。

 女の子はというと不思議そうにこちらを見ている、僕は膝を折り視線を瞳に合わせて、「メリッサが良いってさ。さあ、こっちのベッドを使いなよ」と優しく告げた。

「わーい」

 女の子は飛び上がってベッドに飛び込み、その小さな体が柔らかな布団に沈んでいく、次に枕に自身の頬をこすりつけた。

「お布団、暖かい」

「そうか、良かったね。暖かくして眠るんだよ」
「うん!」

 そう言いながらも、女の子は自身が中に入った布団で目元まで隠し、こちらをむずがゆそうに見ている、何か言いたそうだ。

「どうしたんだい?」
「おじさん、おやすみなさい!」
 そう言って、目をつぶる。僕はその寝顔のおかげで、胸にこもった黒く渦巻いた感情がすっと晴れ、胸に暖かな安らぎを得た。

「おやすみ」
 親が子にキスをするように女の子のおでこに口づけをする。

 途端に悪寒が走った、何やら寒気がする。ふと、奥のベッドで寝ているメリッサと目が合った、口を布団で隠しながらじっと眉をひそめこちらをにらんでいる。怖い、やめてくれ、頼むから。

 何とかひと段落が済んだので地べたに寝転んで眠りについた。

「わーい」

 窓から差し込む朝日にまどろんでいると明るい少女の声が割って入ってくる。トタトタと軽い足音が聞こえてきた、そして部屋の扉を開けた音がした。

「おじさん! 起きて」

 言うなり否や、地べたに寝転んでいる僕の上にのりかかってきた、少し重さにたじろいだが、まあ軽いものだ、割と心地いい。

「どうしたんだい、お嬢さん」
 眠気のとれない僕は目をひそめてだるそうに聞いた。

「あのね、あのね。服くれたの!」
「えっ、誰が」

 予想外の答えにいきなり眠気が飛んで行った。この娘をよく見ると温かそうな毛がついたオレンジ色の上下の服に着替えている、その後何かに気づいたように女の子は後ろを向く、部屋の入口にメリッサが不機嫌そうに立っていた。

「メリッサ、君が服を用意してくれたのかい」
「あまりにも、みすぼらしい服を着ていたから、着替えさせただけだ。別に他意はない」

 ぷいっとメリッサは横を向く。

「ねえ、おじさん! 似合う? 似合う?」
 女の子は嬉しそうに尋ねる。

「どこに出しても、恥ずかしくないレディだよ、お嬢さん」
「何にやけているんだ」

 あ、いやいやそういう意味じゃないんだけど。もしかしてメリッサ嫉妬しているのか……?

「まあ、メリッサが世界で一番可愛いけどね」
「えー」

 女の子は不満そうにした。メリッサは目を背けながら、「また、とってつけたように」とつぶやきつつも、頬を染めるメリッサ。可愛い奴だな本当に。

 ひと時沈黙が流れると、メリッサはのどを鳴らし、

「とりあえず、その娘はお留守番して、私と佑月は買い物に行く。おとなしくしているんだぞ」
「私も行きたい-」
「ダメだ。これで遊んでろ」

 どこで手に入れたのか、メリッサは木の馬と人形を二つ渡した。男の子の人形と女の子の人形だ。それを女の子はじっと見ていた。メリッサはこれ以上かかわりたくないのか後ろに振り替えようとすると、少女がメリッサの袖を引っ張る。何事かとメリッサが見下ろした。

 女の子は口を大きく開けて「ありがとう! ママ」と声を上げたから、メリッサがたじろいだ。そして、急に顔が真っ赤になり、「私はお前のような子ども産んだ気はない! おとなしくしてろ! 佑月、買い物に行くぞ」と言い放ったので大慌てで僕は服を着替えて、メリッサと外に出かける。

「メリッサ……」
「なんだ! 言いたいことあるなら言ってみろ」

 大通りに出たところで話しかけた、僕はメリッサの頭をなでながら、「立派な母親になれると思うよ、君は。僕も夫として嬉しいよ」と優しく諭す。

「ばっ……」
 メリッサは顔を赤くしてこちらへと詰め寄ってくる。僕の顔がにやけているのを見てだろうか。顔をそむけ、

「私も女らしいところを見せないと、佑月に嫌われると思ったからだ」

 僕はメリッサの頭を優しくなでる。
 そして一言──

「愛しているよ」

 言葉で愛でるとメリッサは恋を知らぬ乙女のようにもじもじして何も言わなくなった。僕はメリッサの肩を抱いて大通りを歩いていく。静かな時間が流れていると、急にメリッサが驚いたように肩を上げ、「エインヘリャルが来る、佑月、戦闘態勢をとれ!」と叫んだ。

「あの女の子じゃないのかい?」
「違う、あの娘は気配が微弱だった。だから近づかれても気づかなかった。今度は違う!」

 僕は気持ちを入れ替える。
「――メリッサ・ヴァルキュリア、僕に力を貸せ!」
「――イメージしろ、お前は何を思い描く?――」
 戦いの準備を整え、相手の先制攻撃を受けないよう身を脇道へと入った。

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