純愛ファンタジー小説 終末のヴァルキュリア 第七十五話 挑戦者

2020年8月22日

 蒼い空に顔を向けると鳶(とんび)に似た鳥が羽ばたき鳴いた。眩しい日差しに金髪を照らし十代後半だろう、長い髪の毛を後ろにくくった少年が大きな家の屋根に上っていた。顔は陰になって見えないが、隣には鎧をまとった女性がいた、間違いないエインヘリャルとヴァルキュリアだ。

 一歩進み、こちらの様子を覗いたようで、影に隠された赤支子の上着に装飾が施され白い服ですらっとしたズボンを履いていたのが見えた。どうやら中世ヨーロッパの服ではない、違う素材でできている。
 
 近くには、長い赤い髪を風に任せている美しい少女がいた、金色の鎧を着ており豪勢な装飾を施された剣を抜く、なるほどやる気かなら、こちらも手加減の必要はあるまい。

 少年は開口一番、「殺戮(さつりく)の女帝と言うのはお前たちか!」と、メリッサのほうを指さす。彼女は武装をしており剣と盾を構えていたが、虚を突かれたようで、しかめっ面をする。
 
「ヴィオネス様そちらはおそらく、ヴァルキュリアでしょう。エインヘリャルは、そちらのやや若い中年の方です」

 金色のヴァルキュリアはSG552を構えた僕を指さす。

「なんだ男ではないか、人違いかつまらん。ここいらに、あの日向直子がいると聞いたが、雑魚が相手とはな」

 日向さん……? 何のことだ。彼女の名前が何故出てくる。

「日向直子を知っているのか!」

 メリッサは五十メートルほど離れたエインヘリャルとヴァルキュリアに呼びかける、声はよく通っており、ハスキーがかった声調、それも張りがあり、民衆を畏怖させる効果があった、周りの人々はこちらを見てざわめいている。

「当たり前だ! 三千人ほどのエインヘリャルを虐殺した女帝のエインヘリャルだ。この世界に来て、何度もその名前を聞かされた」

 少年は叫ぶ。なるほど彼女の戦果を鑑みれば納得のいく話だ、そこまで殺せば流石にその筋の奴らに名前が広まってもおかしくない。

「そうか残念だったな、日向直子はこの男に倒されたぞ!」

 僕に手のひらを向け誇らしそうにするメリッサ。何故、敵を挑発するのか理解できない、彼女が戦士としてプライドを持っているためだろうか、名の通ったものを倒したと自慢したいのだろうか、一庶民であった僕にはわからない感覚だ。

「なんだと! 嘘をつくな」

 少年が見るからに慌てていた。赤い髪のヴァルキュリアが、何やらコソコソと少年に語りかけている。メリッサはと云うと誇らしげに、にやついている。やめてくれ、僕は日陰の人間なんだ。

「よし、いいだろう。どうせ日向直子に挑戦する気だったんだ。その力本物かどうか試してやる」

 ヴィオネスと呼ばれた少年は右手を天にかざす。光が集まり、彼の手元に長い槍が現れる。二メートルほどだろう、それを美しいフォームでこちらに投げつけてきた。

 なるほど、あれが奴の能力か、僕は姿勢を下げ、道の右手にいたところを、左の角に移動する。槍はどんどん加速していき、地面に刺さった頃には、深々と刺さり、周りをへこませている。

 見るからに威力は死に至らしめるのに十分だ。目の前で構えて投げつけてくれたため楽によけられたが、後ろからグサリと行けば、1発でヴァルハラへ直行だ、様子見に僕は立ち撃ちでヴィオネスの心臓を狙った、勢いよく銃弾が飛び出ていく。

 どうやら、バースト射撃で雑に狙っただけなので、肩に1発当たっただけだ。左肩の一部が跳ね飛ぶ、相手が屋根に居座っている以上高低差がある、目視では当てにくく、少々ぶれたか、難しいな修正せねば。

「貴様ぁ――――――――!」

 またもや長槍を投げつけてくる。そして屋根を左手側につたっていく、ならばと、僕は足下にセミオートで弾を置いていく。いつものように相手の行動範囲を束縛して狙撃に入る。照準(リアサイト)で狙いを定める、その中に赤い髪のヴァルキュリアがはばんできた、一瞬ためらったが僕はかまわず撃った。

「キャッ!」
「グッ!」

 弾はヴァルキュリアの左肩を貫通し、ヴィオネスの右の背中を貫通していった、少年はうずくまりながら何の策もなく長槍を放ってくる。あれだけ大きな槍だ直撃コースであろうと立ち回れる。ヴィオネスは眉間にしわを寄せ、「二度までも……! 許さん」とつぶやく。

「ヴィオネス様、武器をお換えください。相手はどうやら遠距離に特化した武器のようです、故にこのままだと不利です」

 武器を変える、まさか僕と同じ系統の能力なのか。赤い光線が集まり、ヴィオネスは右手を掲げ武器を形作っていく。

 あれは……!

 ──少年の手に光が集まり、徐々に物質化していく。光から模(かたど)った物体は僕と同じSG552だった。

「自分の武器で死ね!」

 弾をこちらへと乱発する。僕は低い姿勢で距離をとり、あちらの屋根の部分から、見えない位置に身を隠す。

「見たか! これが俺の力、鏡(ミラー)だ! 相手と同じ武器を生成する。どうだ驚いたか!」

 少年よ気持ちはわかるが、敵に手の内を明かすのはどうかと思うよ、これが若さか。僕も若かったら、あんなこと、言っていたのだろうか、自分の中学生時代を思い出して恥ずかしいな。

「ほら! ほら! ほら!」

 調子に乗って銃をフルオートで弾をばらまく。そして、三十発を使い果たす。

「何! 攻撃できないぞ、なんだこれは!」

 弾切れになってロックがかかった。その間、僕は身を乗り出し、奴にとどめの一発をお見舞いしようとする。

「ヴィオネス様! 離れてください」

 またもや赤いヴァルキュリアが視界をさえぎり、その影に隠れてヴィオネスがその場から離れる、おいおいヴァルキュリアは戦闘に関与できないんじゃなかったか、あいまいなルールだ。

 その内にもう一度、奴はSG552を生成する。敵の武器を確認し、素早く木箱の後ろに身を隠した。困ったなあ、これじゃあ堂々巡りだ。
 
「ほら! 当たれ! 当たれよ!」

 またフルオートで弾をばらまいてるよ、下品な奴だな。まあ、奴の方が武器の交換が有利なのはわかった、邪魔しているヴァルキュリアをどうにかするか。

 待っているだけですぐに三十発使い果たす。僕が構えるとまた赤い髪のヴァルキュリアが邪魔をするので、かまわずバースト射撃で胸を撃った。

「キャァァァ――――!!」
「ルリア!」

 あの赤いヴァルキュリアはルリアというのか。知ったところで別段、何の意味もないが、苦笑をしながらも、敵の動向確認は怠らない。

「絶対に、ヴィオネス様をやらせない!」

 血まみれで視界をさえぎるルリア、少女を撃つ趣味はないが仕方ないと女を盾にする男を疎んじる僕は一つ嘆息をする。薄目で相手を見やっておると、介入してきた、メリッサが。

「誰か忘れてないか」

 メリッサが矮躯(わいく)で素早く屋根の上へと駆け上がりルリアに襲いかかる、その速度に赤い髪のヴァルキリアが動揺を隠せない様子だ。

「くっ、これほどの傷を負って戦うことが」
「ルリア! 戦法を変える、行くぞ!」

 奴らは距離をとって、SG552の弾をばらまく。メリッサは弾を受けないように後退し、情勢を見るや否や僕はすぐさまメリッサと合流した。

「あれをどう見る」
「冗談で戦っているのか、何かしらの策があるのかわからん」

 左眉尻を上げながら苦笑するメリッサ。似たような感覚を得た僕は、「まずは様子見だな、手の内が読めない」といって精神を鋭敏にさせたのであった。

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