終末のヴァルキュリア 第七十七話 守るべきもの

2020年9月12日

 そうだ、あの女の子が危ない! 思わず僕は駆け出した。足を大きく踏み出し、膝を高く上げる。SG552を両手で持ちながら、肩で息をした。──間に合ってくれ。

「メリッサ、君の方が足が速い。先回りを頼むぞ」
「わかった! 後は任せたぞ」

 僕が静かにうなずくと、メリッサは銀色の髪をたなびかせ、風となってその場から立ち去った。僕は敵を警戒しながら、急いで宿へと向かう。逐次、道を曲がる時、銃を構え確認していき、あるいは道からの視界に隠れながら、丁寧に道を制圧していく。

 突然のことだった、銃声が鳴り響いたのだ、まさか、僕は不安になりながらなるべく慎重に行動する、慌てずに急ぐんだ、銃声が鳴ったところへ向かう。

 なんであんな素直な良い子が、犠牲にならないといけないんだ。それが運命というなら僕は世界と戦い続ける。これが神の意志なら、神をも殺す。

 また銃声が鳴った、状況はどうなっているんだ。早く、早く。音の出どころは宿から少し離れた大通りに出たところだ。

 その時だ、声が鳴り響いた。

「ママー! おじさんー!」
「ははは、エインヘリャルめ、その正体を現してみろ」

 雪崩のごとく乱射するヴィオネスと、黒髪のあの女の子が小さい手足を動かしながら頭に手を当て、転びつつも、立ち上がり、弾から逃れているのを僕は見た。

「ちょこまかと、まあいい。これはこれで楽しい、いいぞ、逃げろ逃げろ」

 ヴィオネスは調子に乗ってSG552をフルオートで、女の子に向かって、弾をばらまいていく。

 ふざけるな! 相手は無抵抗の幼い子ども相手だぞ。コイツ……必ず殺す。

 奴は僕の左手側の奥におり、そのずっと奥に女の子が逃げ回っている。僕は照準をのぞき奴の右肩をバースト射撃で撃った。
 
 残響音が鳴り響いて、状況確認をしたところ、200メートルほどあったが全弾命中。ヴィオネスはSG552を手から落とす。

「なんだ! 後ろから卑怯だぞ」
「二人同時に相手するのは危険です、ここは一人を足止めして各個撃破していきましょう」

 僕の出現に計画を練り直すため、ヴィオネスとルリアが話し合っている。

「なら弱いほうを先に倒そう、子どもを狙うぞ」

 このクソガキが、ふざけるな。戦うならこっちを狙え、戦さの美徳はないのか、ならこっちも遠慮はいらない。

 奴の後ろをとり、迷いなく背中を撃ち抜いていく。

「グハアッ!?」

 しぶとい奴だ、すぐさま奴は傷を回復し剣を製造する。こちらを向き、近くにある家を切り裂いていき、崩れたコンクリートの残骸に苦心する。くっ、道を塞がれた、高く盛り上がった屋根の残骸に乗り上げた、しかし長い投げ槍が飛んでくる。僕は槍をかわし、倒れ込みながら道を進んでいく。

 奴の工作のせいで距離が空いてしまった、居場所がつかめない、索敵をしたが大通りにはいない、どこだ? 探ったところ右手の道から銃声がする。

 ――あっちか!

「ほら! また逃げるのか、ははは――!」
「ママー! おじさんー! 助けて、誰か助けて!」

 遠慮なく弾をばらまいていた、奴は今日初めて銃を持ったから仕方ないが、的外れなところに撃ってくれていた、今それが幸いして少女の命を守っている。

 性懲りもなくSG552をクソみたいな使い方して! 同じくSG552を構える僕、しかし、ルリアが早かった。

「ヴィオネス様! 敵の攻撃が来ます」
「よしわかった!」

 僕はかまわず撃つ、ルリアがかばったため、ヴィオネスには掠(かす)めただけだった。

 奴は銃を消し、剣を製造し、家を切り裂いていく。ドドッと大きな音をして崩れ落ちてくる家々。巻き込まれないように距離をとる。

 困ったことになった。現在脇道におり、道が狭いため崩れ落ちた家の残骸が、僕の身長より高く盛り上がってしまい、上りにくくなってしまった。

 SG552を背中に背負い両手で崖を登るように、上へと目指した。頂点に立った時、視界が開けていた。──これなら自由に狩れる。

 すばやく銃を構えた、バカな奴、ヴィオネスの頭の部分が丸出しだ。距離は150メートル、十分当たる。欲を出しヘッドショットを狙った、ルリアがそれに反応し、ヴィオネスを突き飛ばした。男は何が起こったのかを理解できなかったためか、やかましく喚いていたが、こちらにとっては厄介であった。

 しかし、今度はヴィオネスが逃げる番だ、殺気を察したのか、全速力で奴は逃げ出す。鋭く奴の行先に銃弾を撃ちこんでいった、足が止まったところ、今度こそヘッドショットを狙う。

「ヴィオネス様! 槍で敵の足下を崩してください!」
「言われなくても」

 切迫した状況で動揺したのか、僕のバースト射撃は僅かに外れ、ヴィオネスの肩を貫いただけだった。投げ槍が足下に投げ込まれ、崩れ落ちた家が槍の威力で弾け飛び足下が崩れる。
 
 くそっ! 僕はバランスを崩し家の残骸から転げ落ちた。このままだとSG552に蜂の巣にされる。僕は伏せ撃ちで、ヴィオネスの足を狙った。

 手ごたえがあった、どうやら放たれた弾丸はヴィオネスの右足を貫き、カンという硬質音を立てて、周辺の家の壁に埋まった。

「ガァァァ!」

 これで終わりだ、頭に狙いを定め引き金を絞ろうとした。奴は何を血迷ったか、女の子のほうに銃を乱発する。じっとこちらを見ていた女の子は、奴の行動を理解できず、地面に撃ち込まれている弾を眺めている。

 ――危ない!

 その時だった。

 弾が放たれ、赤い血が飛び散っていく、まるで彼岸花のように紅く広がって咲いた。

 メリッサの体を貫いて。

「ママ!」
「メリッサ!」

 メリッサは女の子をかばうように両手を広げて、身をていしてかばっていた。幸い弾は、貫通しても女の子に当たることはなかった。

 傷口が深いのか、 メリッサが膝から崩れて落ちていく。

「大丈夫! ママ!」

 女の子はメリッサに抱きつき、自分の手には赤い血がついていて顔を歪める。止めどなく流れる液体、地は赤く染まる。

 今にも泣きだしそうな女の子の頭に手を当てたメリッサは、やさしく微笑みながら諭す。

「大丈夫だ……。母親は……強いからな」

 思わず僕は叫んだ。
「ヴィオネス! 貴様ああぁ――――――!!」

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