終末のヴァルキュリア第七十九話 守るべきもの③

2020年11月15日

 僕は街道を駆けめぐった。巨大飛行艇アルキメデキスから距離と角度を測り、正確な弾道が取れるポイントを探す。何せ相手は空高く飛んでいる、なら重力を考慮して軌道を測定しなければならない。丁寧に銃の照準で調べていると、側面を取るに最適な2階建ての一般家屋が見つかった。

 僕はかんぬきを、L118A1を発射して壊し、扉を蹴破る。

「なんだ! 誰だお前は」

 家屋に住む家族が食事中だった。問答する暇はない、それに僕と現地人では言葉が通じない、なら実力行使だ。父親と見える男の頬をかすめるように、銃を撃つ。

 石造りの家に銃声が木霊し轟音になる。飛び上がり驚いた父親と母親と息子は、叫びながら奥の部屋に引っ込み、扉を閉めた。そうだそれで良い。

 僕は急いで二階へ続く階段を上った。廊下の右手と左手に部屋がある。方角を確認して、左手側にある奥の部屋の扉を蹴って、中に入った。人は誰もいない。

 どうやら子ども部屋のようだ、ベッドと粗末な棚とおもちゃらしきものがある。中を見分し、おあつらえ向きに窓は正面にある。外から見た構造とほぼ一致する。窓の戸を開けようとするが、戸が下から30度余りしか上方にしか開かない。

 銃で扉の片方のちょうつがいを壊した。粗末な戸だ、力任せに引っ張ると壊れた。それを家の外に捨てて、アルキメデキスを見あげる。

 ちょうど角度的にヴィオネスが見えた。距離はおよそ450~480メートル、これなら今の僕でも精密狙撃が可能だ。

 僕はベッドを横に立てて、上に布団を丸めておく。その上にL118A1の銃身(バレル)を置いた。銃の発射の反動和らげるためと、長い銃身(バレル)を固定するためだ。
 
 スコープをのぞく。もちろん僕は光学機器は作れない、ただのプラスチック板で覗いても役立たずだ。だが照準を合わして、目標の確認はできる。
 
 ヴィオネスの上半身を狙うか。いやここからだと側面だ、弾道は重力に沿ってずれていき、角度的に腕に当たって、上半身に届かないかもしれない。

 照準を下に持って行く。優秀なスナイパーは良いポジションをとった場合、銃を設置した時点で仕事は終わっている。後は照準を合わせて引き金(トリガー)を引くだけ。

 一つ呼吸をし、心を静める。僕は鋼の心臓をもっている、そう暗示をかけ、引き金に触れる。銃とからだが一体になる感覚、そして訪れる静寂。一秒が幾万秒に凝縮され、自分の心臓の鼓動すら遅い。なんという神聖な静けさだ! この瞬間、僕はこの戦場の支配者だ、脳内でドーパミンが騒ぐが、一体感は解けない。

 獲物がスローモーションで動く、そして瞬きするのも惜しんで、目標と照星が一致したその時、引き金(トリガー)を絞る。
 
 一気に撃鉄が上がり撃針が弾(カードリッジ)の雷管を激しく叩く。薬莢(やっきょう)の中で無煙火薬が発火し燃焼し、ガス爆発が起こり、弾丸が銃口へと強靭な運動エネルギーを得て飛び出していく。旋条(せんじょう)に刻まれたライフリングに影響されて回転しながら直進し、弾丸は銃から外へ発射される。その刹那、鼓膜を切り裂かんばかりの銃声が鳴り響いた。
 
 そのスピードは850メートル毎秒。0.5秒ほどでヴィオネスの足へと届く。すぐさまヴィオネスの左足がふっとんで体が崩れ落ちる、そのような小さな影を僕は見た。
 
 足らしきものは天空の彼方に飛ばされ、ヴィオネスは這いつくばって、少しうごめき、アルキメデキスが傾き、滑り落ちるように転がっていく。
 
「グアアァ――――!!」

  街中に響く絶叫、なんとか両手でアルキメデキスにしがみついたようだ。右足を懸命に動かし斜面を上ろうとする。
 
 手ごたえを確認し、僕はボルトハンドルを掴みボルトレバーを引き排莢(はいきょう)をする。弾倉(マガジン)から持ち上がった弾(カードリッジ)をボルトレバーで押し込み装填(そうてん)した。

 照準を合わす。後は引き金(トリガー)を引くだけ。続けて飛び出す弾頭、瞬く間に、ヴィオネスがのぼろうとして上げていた右足がふっとぶ。

「ガアアアァ――!!」
 悲鳴に近い絶叫、空気が張り詰める。気づかないうちに僕は汗をかいていた。呼吸をコントロールし、照準をヴィオネスの背中の心臓部に定める。

「終わりだ」

 瞬間上半身の一部がふっとび、肉片と血が飛び散る影を見た。アルキメデキスが消え、ヴィオネスとルリアは遙か彼方、地面へと落下する。僕は窓の四角形から顔を出して確認する。
 
 冷たい風が僕の前髪をなでた。街の空気に散りばめられた絶叫と血。空は紅に染まり、花火のように広がった後、空は蒼く屹然(きつぜん)とし、赤色はすぐさま消えった。残ったのは僕の手の中にある鉄の銃のみ。

 僕は仕事を終えたことに自分の女神に感謝し、落ち着いて民家を去る。後は奴が死んだか確かめるだけだ。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 視点は変わり、哀れな敗北者へと移す。

「くそっ! なんで俺がこんな目に」

 両足を奪われ地を這うヴィオネスは血を吐いていた。このままだと死ぬと、恐怖に駆られながら、できるのは血を流しながら石畳の道を這いずるだけ。

 狭い暗がりから人の気配を感じる。もう奴がやってきたのか、流石に彼は観念したかのように力が抜け冷たい床に横たわった。

「生きたいか?」

 脇道の影から声がする。記憶をたどるが聞き覚えのない声だと彼は思った。声は低く、落ち着いた男の声だった。ヴィオネスはのどから絞り出すように告げる。

「当たり前……だ! こんなところで……死んでたまるか!」

「君の才能は素晴らしい! だが持つべき経験と判断力が欠けている。その才、持て余している。なら私が使ってやろう」

「あいつに勝てるなら……何でもする! こんなところで……」

 ヴィオネスは声の元に近づこうとする。きらびやかな金属の装飾物に身につけた男が立っていた。

「よかろう」

 影から手が差し出されヴィオネスの体にふれる。すると、血が流れなくなった。奇跡だ、これは神からの啓示かとヴィオネスは思いふける。

「これは一体……? 俺は……生き延びられるのか……」

「そうだ、神はお前を見捨てはしない。ようこそ、教会団へ。ヴィオネス君、きみを歓迎するよ」

 そう言って頬のこけた中年の男性の司祭が影から現れた。神は見捨てなかった、例えそれが無邪気な殺戮者だとしても。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 僕はヴィオネスの血の跡をたどり、途中で途絶えていることから、奴が死んで消えたことを考えた。安心してメリッサと女の子の元へと足を運ぶ。
 
「おじさん~!」
 喜んだ声を上げながら、女の子が抱きついてきた。

「終わったのか」
 メリッサは低くハスキーヴォイスで静かに確認するものだから、少しぞくっとした感覚で刺激される。僕は頬笑みを返す。

「ああ、確認した。ヴィオネスは死んだ」
「そうか、今回もよくやった、見事だ」

 木箱に座っていたメリッサはゆっくり立ち上がる。

「もう怪我は大丈夫なのかい」

「母親がこのくらいでへばってたまるか」
 冗談めかして言ったが、言葉に出すと照れてしまったのか、彼女は苦笑した。

「ママ~!」

 今度はメリッサのほうに女の子は抱きつく。

「よしよし、怖かったな。もう大丈夫だ」

 メリッサが優しく女の子の頭をなでる姿を見て、僕は頬が緩む。どうやら今回の一件でメリッサもこの子に愛着がわいたらしい。喜ばしいことだ。

「そう言えばお前、名前がまだ思い出せないのか?」

 女の子は小さく自信なさげにうなずく。

「そうかなら私が名前をつけてやろう。その黒い瞳、柔らかな黒髪、芯の強そうな眉、みんなに愛される小さな唇、そうだな……ナオコでどうだ?」

 ナオコ、その言葉を聞いたとき耳を疑った。心が張り裂けんばかりに、心臓が高鳴る。

「メリッサ……それは」

 僕の胸が締め付けられた。その名前は……。日向(ひゅうが)さんの……。

「ナオコ……?」
 女の子は可愛らしげに首を傾ける。そして満面の笑顔で、
「うん! 私、ナオコ! ママありがとう」

「お礼ならパパに言うんだ」
「パパ?」

 メリッサは僕の方を指さす。ナオコはこちらに走ってきた。
 「パパ! ありがとう!」
 じんと響く言葉だった。パパ、温かな響き、和やかな静寂が訪れ、再度心の中でその響きを味わう。

「そうだ僕は君のパパだ! ははは」
 僕はナオコの黒髪をなでた。そして宿へと戻るため、僕とナオコとメリッサで手をつなぐ。

 この異世界で孤独から見つけた家族。そう僕らは家族なんだ。僕の失くした家、それが今手に入った。僕はそれを大切にしたい、例え、この世界がどんなに残酷でも、僕の綺麗な宝物達を守る。絶対に僕は守り続ける。

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